この記事の結論

Google Workspace には、メール添付ファイルのサンドボックス検査、ドライブの自動ウイルススキャン、DLP、ブラウザ・端末側の持ち出し制御といった機能が標準または上位エディションで用意されています。ただしこれらは「検知して止める」方式であり、ファイルを再構築して能動的コンテンツを除去する従来型の無害化(CDR)とは方式が異なります。どこまでを製品機能で満たし、どこに別の仕組みを置くかは、自治体側が設計して説明できる状態にしておく必要があります。

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無害化はどこで求められるのか

自治体の情報システムは、三層の対策として、マイナンバー利用事務系・LGWAN接続系・インターネット接続系に分離されています。無害化が問題になるのは、インターネット接続系と、それより内側のネットワークとの間で情報をやり取りする経路です。

具体的には次の3つです。

経路何が通るか論点
メール外部から届く本文と添付ファイル添付ファイルとリンクをどう扱うか
ファイルWebからのダウンロード、外部との受け渡し内側へ持ち込む際の検査と変換
端末ローカルに残るデータそもそも端末に残さない設計にできるか

採用しているモデル(α/β/β')によって、どの経路がどれだけ重くなるかが変わります。モデルごとの違いはLGWANと三層分離の解説を参照してください。

メール:サンドボックスで何ができるか

Gmail にはセキュリティ サンドボックスがあります。受信メールの添付ファイルを隔離環境で実際に実行し、振る舞いから悪意を判定する仕組みです。シグネチャに載っていない未知のマルウェアにも反応し得る点が、従来型のパターンマッチとの違いです。

設計時に押さえるべき点は3つあります。

論点内容
エディション依存すべてのエディションで使えるわけではありません。Google の公開ドキュメントでは、Frontline Plus、Business Standard、Business Plus、Enterprise Standard、Enterprise Plus が対応エディションとして挙げられています。調達時のライセンス選定に直結します
対象ファイル形式直接の添付に加え、zip や rar といったアーカイブ内のファイルも対象です。実行可能ファイル、Office ファイル、PDF などが検査対象として挙げられています
配信の遅延実際に実行して観察するため、配信までに時間がかかります。窓口業務で即時性が求められる場合は、運用への影響を事前に確認してください

あわせて、Gmail 側には高度なフィッシング・不正ソフトウェア対策の設定項目があり、なりすましの疑いがあるメールや暗号化された添付ファイルの扱いを個別に指定できます。既定のままでは有効になっていない項目があるため、管理コンソールで一つずつ確認してください。

「検知」と「無害化」は別物である

ここが最も重要な論点です。自治体の要件でいう無害化は、歴史的にファイルを再構築して能動的コンテンツ(マクロ、スクリプト、埋め込みオブジェクト)を除去する方式を指すことが多くあります。テキストや画像だけを抽出し直して、実行され得る要素を構造的に落とす考え方です。

一方、サンドボックスやアンチウイルスは検知して止める方式です。両者は目的が近くても、性質が異なります。

観点検知型(サンドボックス・AV)無害化型(CDR・サニタイズ)
やること悪意があるかを判定し、あればブロック悪意の有無にかかわらず能動的コンテンツを除去
判定漏れあり得る(未知の手口、判定回避)判定そのものを行わないため、この意味の漏れはない
利便性問題なければ原本がそのまま届くマクロ等が落ちるため、業務ファイルが使えなくなることがある
原本の扱い原本が届く原本を別途取得する手続きが要る

どちらが優れているという話ではありません。重要なのは、自庁がどちらの方式で要件を満たすと整理したのか、そしてその判断を第三者に説明できるかです。製品機能の一覧を示すだけでは説明になりません。

ファイル:ドライブとブラウザの制御

ファイル面では、Google Workspace とブラウザ・OS の各層に制御が用意されています。

  • ドライブのスキャン:アップロード時のウイルススキャンと、組織外から共有されたファイルの自動検査。検知されたファイルはアクセスがブロックされます
  • Google Workspace DLP:ドライブ上のファイルについて、内容やラベルに応じて共有をブロック・警告できます
  • Chrome Enterprise Premium の DLP:ブラウザを通る通信に対して、アップロード・ダウンロード・貼り付けの禁止、URL フィルタリング、透かしの挿入といった制御が可能です
  • ChromeOS のデータ管理:印刷、スクリーンショット、画面共有、外部ストレージへの転送まで制御対象に含められます

注目すべきは「持ち込ませない」だけでなく「持ち出させない」制御が揃っている点です。従来の無害化は外から内への一方向を想定しますが、行政データの保護という観点では、内から外への流出防止も同じ重みを持ちます。

ただしこれらの多くは上位エディションや追加ライセンスが前提です。どの機能がどの契約で使えるかを、調達前に必ず突き合わせてください。

端末:残さない設計にできるか

端末側の無害化は、突き詰めるとローカルにデータを残さない設計にできるかという問題になります。

  • ダウンロード禁止ルール:ブラウザや OS のポリシーで、そもそもローカル保存をさせない運用が可能です
  • ChromeOS の設計:アプリが Web アプリとしてサンドボックス内で動作し、信頼できない実行ファイルを既定でブロックする設計です。従来型 OS とは前提が異なります
  • エンドポイント管理:リモートワイプ、パスコード要件の強制、Android の仕事用プロファイルなど

ここで現実的な壁になるのが、既存の業務システムやマクロを含む Excel ファイルへの依存です。ChromeOS に全面移行できれば端末側の論点は大きく減りますが、Windows でしか動かない業務が残る場合は、端末を混在させたうえでそれぞれに設計が必要になります。「全部 Chromebook にすれば解決」という単純な話にはなりません。

Google Workspace だけでは完結しない部分

提案を受ける側として、次の点は自分で確認してください。製品の機能一覧では埋まらない領域があります。

領域確認すべきこと
Google Workspace を経由しない経路USBメモリ、他システムからの取り込み、紙のスキャン。これらはクラウドの機能では守れません
LGWAN接続系との受け渡し内側ネットワークとのファイル移送を、どの仕組みで行うか
原本が必要な場合の手続き無害化で使えなくなったファイルの原本を、誰が承認して取得するか
都道府県セキュリティクラウドとの関係経由する構成なら、どちらで何を実施するかの役割分担
ログと監査誰が何を持ち込み・持ち出したかを、後から追跡できるか

3番目は運用設計の要です。無害化を強くするほど、業務で必要なファイルが使えなくなる場面が増えます。例外を通すための申請・審査の手続きを先に決めておかないと、現場が抜け道を探すようになります。

設計時に決める順序

順序決めること
1採用するモデル(α/β/β')と、無害化が必要な経路を確定する
2各経路を「検知型」で満たすのか「無害化型」で満たすのかを決め、根拠を文書化する
3必要な機能から逆算してエディション・追加ライセンスを確定する
4クラウドを経由しない経路(USB、他システム、紙)の扱いを決める
5原本取得の申請・承認フローと、ログの取得範囲を決める
6窓口業務への影響(配信遅延、ファイルが開けない場合)を運用で検証する

2番目を飛ばして製品選定に入ると、後から「この構成で要件を満たしていると言えるのか」という問いに答えられなくなります。機能の充足リストではなく、方式の選択とその理由を残してください。

アカウントのライフサイクル設計は自治体職員のアカウント管理と人事異動、行政文書としての保存と開示請求への対応は公文書管理・情報公開請求とGoogle Workspaceで扱っています。

ブラウザ側の制御を担う Chrome Enterprise Premium については、Chrome Enterprise Premiumとは|Google Workspace標準との違いと導入判断でCore/Premium/Upgrade の違いを含めて整理しています。

よくある質問

Google Workspace の機能だけで自治体の無害化要件を満たせますか?

一概には言えません。総務省のガイドラインは特定製品を指定しておらず、どの方式で要件を満たすかは自治体側が設計して説明する必要があります。Google Workspace にはサンドボックス検査やDLPなどの機能がありますが、これらは検知して止める方式であり、ファイルを再構築して能動的コンテンツを除去する従来型の無害化とは性質が異なります。

セキュリティ サンドボックスはどのエディションで使えますか?

すべてのエディションで使えるわけではありません。Google の公開ドキュメントでは、Frontline Plus、Business Standard、Business Plus、Enterprise Standard、Enterprise Plus が対応エディションとして挙げられています。調達時のライセンス選定に直結するため、必ず最新の公式情報を確認してください。

サンドボックスを有効にするとメールの配信は遅れますか?

遅延が生じます。添付ファイルを隔離環境で実際に実行して振る舞いを観察するため、その分の時間がかかります。窓口業務など即時性が求められる場面がある場合は、運用への影響を事前に検証してください。

検知型と無害化型はどちらを選ぶべきですか?

どちらが優れているという性質のものではありません。検知型は原本がそのまま届く一方で判定漏れの可能性が残り、無害化型は判定に依存しない代わりにマクロ等が落ちて業務ファイルが使えなくなることがあります。重要なのは、自庁がどちらで要件を満たすと整理したのかを文書化し、説明できる状態にしておくことです。

クラウドの機能では守れない経路にはどんなものがありますか?

USBメモリ、他システムからの取り込み、紙のスキャンなど、Google Workspace を経由しない経路です。またLGWAN接続系との間のファイル移送をどの仕組みで行うか、無害化で使えなくなったファイルの原本を誰が承認して取得するかも、製品機能の外側で決める必要があります。

端末を全部Chromebookにすれば端末側の対策は済みますか?

単純にはそうなりません。ChromeOS はアプリがサンドボックス内で動作し信頼できない実行ファイルを既定でブロックする設計ですが、Windows でしか動かない業務システムやマクロを含むファイルへの依存が残る場合は端末が混在します。混在を前提に、それぞれへ設計が必要です。

まとめ

Google Workspace には、メール添付ファイルのサンドボックス検査、ドライブの自動スキャン、DLP、ブラウザと端末での持ち出し制御まで、無害化に関わる機能が揃っています。ただし対応エディションが限定される機能があり、調達時のライセンス選定に直結します

最も重要なのは、これらが「検知して止める」方式であり、ファイルを再構築して能動的コンテンツを除去する従来型の無害化とは性質が異なるという点です。どちらで要件を満たすと整理したのか、その判断を説明できる状態にしておいてください。

そして、クラウドを経由しない経路(USB、他システム、紙)と、原本が必要な場合の承認手続きは、製品機能では埋まりません。ここを設計に含めて初めて、運用が回る構成になります。