自治体の三層分離は「αモデル→β'モデル」への移行が主流です。β'モデルではLGWAN接続系業務もクラウド化でき、SaaS活用とテレワークが可能になりますが、ゼロトラスト(MFA/EDR/CASB/DLP)の実装が必須条件となります。
三層分離の背景
2015年の日本年金機構の情報漏洩事件を契機に、総務省は自治体のネットワークを3つの領域に分離する「三層の対策」を全国の自治体に求めました。インターネットから物理的にマイナンバー情報を隔離することで、標的型攻撃によるデータ漏洩を防ぐことが目的です。
三層分離の仕組み
| 層 | 名称 | 主な業務 | 接続先 |
|---|---|---|---|
| 第1層 | マイナンバー利用事務系 | 住基・税・社会保障 | 独立ネットワーク(インターネット非接続) |
| 第2層 | LGWAN接続系 | 財務会計・人事給与・庶務事務 | LGWAN(行政専用閉域網) |
| 第3層 | インターネット接続系 | メール・Web閲覧・情報発信 | インターネット |
各層はネットワーク的に分離され、層をまたぐデータの受け渡しには無害化処理(ファイル無害化やメール無害化)が必要です。これにより、インターネット経由のマルウェアがマイナンバー系のデータに到達することを防ぎます。
セキュリティ対策は導入して終わりではなく、日々の運用と検知後の初動が成果を分けます。情シス365では Defender/Intune の運用も含めて、必要な時間数に応じた月額制(月12万円〜)でご支援しています。
情シス365(セキュリティ運用) を見る →自治体システム標準化の事例α・β・β'モデルの比較
2020年の見直しにより、従来の「αモデル」に加え、クラウド活用を前提とした「βモデル」「β'モデル」が選択可能になりました。
| 項目 | αモデル(従来型) | βモデル | β'モデル |
|---|---|---|---|
| インターネット接続 | 第3層のみ | 第3層+一部業務 | 第2層業務もクラウド化 |
| 主要業務の実行環境 | LGWAN接続系(庁内) | LGWAN接続系(庁内) | クラウド上(SaaS) |
| SaaS活用 | 困難 | 一部可能 | 全面的に可能 |
| テレワーク | 困難(VDIが必要) | 一部可能 | 容易 |
| セキュリティ対策 | ネットワーク分離に依存 | 分離+エンドポイント強化 | ゼロトラスト(EDR/MFA/CASB必須) |
| コスト | VDI環境のコスト大 | 中程度 | 長期的にはコスト減 |
| 利便性 | 低い | 中程度 | 高い |
ガバメントクラウドへの移行が進むにつれ、β'モデルへの移行が今後の主流となります。LGWAN接続系の業務をクラウド化することで、SaaS活用とテレワークが容易になりますが、その分ゼロトラストセキュリティの実装が必須です。
LGWANとLGWAN-ASP
LGWANとは
LGWAN(総合行政ネットワーク)は、全国の自治体を結ぶ行政専用の閉域ネットワークです。J-LIS(地方公共団体情報システム機構)が運営し、インターネットとは完全に分離されています。
LGWAN-ASP
LGWAN-ASPは、LGWAN上でSaaS型のサービスを自治体に提供する仕組みです。民間IT事業者がLGWAN-ASP事業者として登録し、自治体向けのアプリケーション(電子申請、文書管理、電子決裁等)を提供できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 運営主体 | J-LIS(地方公共団体情報システム機構) |
| 参入要件 | LGWAN-ASP事業者登録、セキュリティ要件への適合 |
| 接続方法 | LGWAN接続拠点からの専用回線接続 |
| 主なサービス | 電子申請、電子決裁、文書管理、財務会計、人事給与 |
自治体情報セキュリティクラウド
自治体情報セキュリティクラウドは、各都道府県が構築・運用する、県内市区町村のインターネット通信を集約・監視する仕組みです。
- Webフィルタリング:不正サイトへのアクセスブロック
- メール無害化:添付ファイルの無害化処理
- ログ監視・SIEM:不審な通信の検知・分析
- SOC運用:24時間365日のセキュリティ監視
現在は「次期自治体情報セキュリティクラウド」への移行が進んでおり、EDR連携、CASB機能、ゼロトラスト対応が強化されています。
ゼロトラストへの移行
β'モデルへの移行に伴い、自治体においてもゼロトラストアーキテクチャの導入が不可欠です。
| ゼロトラストの要素 | 自治体での実装 |
|---|---|
| ID管理・MFA | Entra ID+条件付きアクセス+多要素認証 |
| デバイス管理 | Intune(MDM)による端末管理、コンプライアンス準拠チェック |
| エンドポイント保護 | EDR(Defender for Endpoint等)の全端末導入 |
| クラウドアクセス制御 | CASB/SWGによるSaaSアクセスの可視化・制御 |
| データ保護 | 秘密度ラベル、DLP(情報漏洩防止) |
| ログ監視 | SIEM/SOARによる統合ログ分析・自動対応 |
ただし、どのモデルを次期構成として選ぶかは機能比較では決まりません。情報システム部門の運用体制、既存資産の更新時期、都道府県セキュリティクラウドとの調整余地という3つの制約が実際の選定を左右します。判断軸と段階移行の進め方は自治体ネットワークの次期モデルはどう選ぶか|α′・β・β′の判断軸と段階移行で整理しています。
BTNコンサルティングの支援
自治体のネットワークモデル移行(α→β')支援、ゼロトラストアーキテクチャの設計・構築、Entra ID+Intune+EDRの導入支援を提供しています。
Google Workspace を採用している場合、無害化をどの機能でどこまで満たすかは個別の設計になります。メール・ファイル・端末それぞれの論点は自治体のGoogle Workspaceで無害化要件をどう満たすかで整理しています。
よくある質問
三層分離はなぜ導入されたのですか?
2015年の日本年金機構の情報漏洩事件を契機に、総務省が自治体のネットワークを3領域に分離する「三層の対策」を求めました。インターネットから物理的にマイナンバー情報を隔離し、標的型攻撃によるデータ漏洩を防ぐことが目的です。
三層はそれぞれ何ですか?
第1層がマイナンバー利用事務系(住基・税・社会保障/インターネット非接続の独立ネットワーク)、第2層がLGWAN接続系(財務会計・人事給与・庶務事務/行政専用閉域網)、第3層がインターネット接続系(メール・Web閲覧・情報発信)です。
α・β・β'モデルの違いは何ですか?
αモデルは従来型でインターネット接続が第3層のみ、βモデルは第3層+一部業務でインターネット接続を認めSaaSが一部利用可能、β'モデルは第2層業務もクラウド化して主要業務をSaaS上で実行しSaaSを全面活用できます。テレワーク対応もβ'モデルで容易になります。
ゼロトラストへはどう移行しますか?
Entra ID+条件付きアクセス+多要素認証によるID管理、Intune(MDM)による端末管理とコンプライアンス準拠チェック、Defender for Endpointなどのエンドポイント保護を全端末に導入する、という順で構成要素を揃えていきます。
まとめ
自治体の三層分離は「αモデル→β'モデル」への移行が主流です。β'モデルではLGWAN接続系業務もクラウド化でき、SaaS活用とテレワークが可能になりますが、ゼロトラスト(MFA/EDR/CASB/DLP)の実装が必須条件となります。