この記事の結論

政府統一基準群は、統一規範(原則)→ 統一基準(遵守事項)→ ガイドライン(実装方法)の3層構造で構成されています。民間事業者にとって最も重要なのは第4部(外部委託)と第5部(セキュリティ機能)であり、MFA、暗号化、ログ管理、インシデント対応の4領域が対応の核となります。Microsoft 365、AWS、Google Cloudなどの主要クラウドサービスを活用すれば、統一基準の主要な技術的要件を効率的に満たすことが可能です。

統一基準群の全体構造

政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群は、国のサイバーセキュリティ戦略本部が決定し、内閣サイバーセキュリティセンター(NCO、旧NISC)が策定・運用するセキュリティ基準体系です。すべての政府機関・独立行政法人が準拠する義務を負い、政府情報システムの調達・運用に関わる民間事業者にも間接的に適用されます。

統一基準群は大きく3つの文書で構成されており、上位から下位に向かって具体化されます。

3文書の関係:統一規範・統一基準・ガイドライン

文書位置づけ策定者記載内容
統一規範
(サイバーセキュリティ対策のための統一規範)
最上位の方針文書サイバーセキュリティ戦略本部各府省庁が遵守すべきセキュリティ対策の基本的な枠組み。「何を守るべきか」の原則を規定
統一基準
(政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準)
具体的な対策基準NCO(旧NISC)統一規範に基づく具体的な遵守事項。「何をすべきか」を規定。7部構成
ガイドライン
(政府機関等のサイバーセキュリティ対策の実施に係るガイドライン)
実装手順・解説NCO(旧NISC)統一基準の各条項に対する具体的な実装方法、技術的解説、設定例
民間事業者が最も参照すべきはガイドライン

統一基準は「何をすべきか」を抽象的に記載しているため、それだけでは具体的な対策がわかりません。ガイドラインには各基準項目に対する具体的な実装方法が記載されており、RFPへの対応や提案書作成の際に最も参照すべき文書です。

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第1部 総則・第2部 情報セキュリティマネジメント

第1部 総則

統一基準の適用範囲、用語の定義、情報の格付け(機密性・完全性・可用性)の基準を規定しています。

情報の格付け

統一基準では、取り扱う情報を機密性・完全性・可用性の3軸で格付けし、格付けに応じた対策レベルを要求します。

機密性定義取扱い
機密性3秘密文書に相当する情報暗号化必須、アクセス者の限定、操作ログの取得
機密性2秘密文書ではないが漏洩により支障が生じる情報アクセス制御、送受信時の暗号化
機密性1公開情報特段の制限なし

第2部 情報セキュリティマネジメント

ISMS(ISO 27001)と同様のPDCAサイクルに基づくセキュリティマネジメント体制の構築を要求しています。具体的には以下が求められます。

  • 最高情報セキュリティ責任者(CISO)の設置
  • 情報セキュリティポリシーの策定と年次見直し
  • リスクアセスメントの定期的な実施
  • 情報セキュリティ教育の年1回以上の実施
  • 情報セキュリティ監査の実施(内部監査 + 外部監査)

第3部 情報を取り扱う区域・第4部 外部委託

第3部 情報を取り扱う区域

情報を取り扱う物理的な区域のセキュリティを規定しています。サーバールーム、執務室、会議室などを「要管理対策区域」として指定し、入退管理、施錠、監視カメラの設置基準を定めています。

第4部 外部委託(民間事業者に最も関係する部分)

第4部は、政府の情報システムを受託する民間事業者が直接準拠すべき最重要パートです。

要求事項概要民間事業者への影響
委託先のセキュリティ水準確認委託先が統一基準相当のセキュリティ対策を講じていることを確認RFP回答時にセキュリティ対策状況の報告を求められる
再委託の管理再委託先にも同等のセキュリティ要件を適用下請けの管理体制の構築が必要
情報の取扱い委託先での情報の格付けに応じた取扱い機密性2以上の情報の暗号化・アクセス制限
インシデント報告委託先でインシデントが発生した場合の速やかな報告インシデント対応手順の整備と報告体制の構築
契約終了時の措置委託業務終了時のデータ消去と返却確実なデータ消去の実施と証跡の提供

第5部 情報システムのセキュリティ機能

統一基準群の中で最も技術的な内容が記載されているパートです。情報システムに実装すべき具体的なセキュリティ機能を規定しています。

主要な要求事項

領域要求事項技術的な対策例
主体認証利用者の識別・認証の実施、多要素認証ID/パスワード + MFA、生体認証、ICカード
アクセス制御最小権限の原則、特権IDの管理RBAC(ロールベースアクセス制御)、PIM(特権ID管理)
暗号化通信の暗号化、保存データの暗号化TLS 1.2以上、AES-256、BitLocker
ログ管理操作ログの取得・保存・分析SIEM、統合監査ログ、1年以上の保存
不正プログラム対策マルウェア検知・防御の実装EDR、次世代アンチウイルス、サンドボックス
脆弱性管理脆弱性情報の収集と修正適用定期的な脆弱性スキャン、パッチ管理

第6部 情報システムの運用・第7部 インシデント対応

第6部 情報システムの運用

情報システムの安全な運用に関する要求事項を規定しています。

  • 構成管理:ハードウェア・ソフトウェアの構成情報を最新の状態で管理
  • バックアップ:定期的なバックアップと復旧手順の整備・テスト
  • 変更管理:システム変更時の影響評価と承認プロセス
  • 運用監視:システムの稼働状況とセキュリティイベントの継続的な監視

第7部 セキュリティインシデント対応

インシデントの検知から報告・初動対応・復旧・再発防止までの体制と手順を規定しています。

  • 検知・報告:インシデントの検知後、速やかにCISO・NCOに報告
  • 初動対応:被害拡大の防止(ネットワーク遮断、アカウント停止等)
  • 原因究明:フォレンジック調査による原因の特定
  • 復旧:システムの復旧とサービスの再開
  • 再発防止:根本原因への対策実施と教訓の共有

令和7年度版の主な改定ポイント

令和7年度版(2025年6月改定)では、以下の重要な変更が行われています。

改定ポイント内容影響
NCOへの改組NISCが国家サイバー統括組織(NCO)に改組。指揮権限が強化インシデント発生時の政府全体の対応が迅速化
ゼロトラストアーキテクチャ境界型防御からゼロトラストへの移行を推奨ネットワーク設計の見直し、常時認証の導入
JC-STARIoT機器のセキュリティ適合性評価制度の導入IoT機器の調達時にJC-STAR適合品の選定が求められる
SBOMソフトウェア部品表(SBOM)の作成・管理の推奨サプライチェーンリスク管理の強化
クラウドサービスの利用基準強化ISMAPクラウドサービスリストからの選定を原則化クラウドサービス選定プロセスの変更

民間事業者が対応すべき要求事項

政府案件を受託する民間事業者が特に注意すべき要求事項を優先度別に整理します。

最優先で対応すべき項目

  • 情報セキュリティポリシーの策定(基本方針 + 対策基準 + 実施手順の3層構造)
  • 多要素認証(MFA)の全社導入
  • インシデント対応手順の整備と委託元への報告体制の構築
  • 通信・保存データの暗号化(TLS 1.2以上、BitLocker/FileVault)
  • 監査ログの取得と保存(最低1年間)

段階的に対応すべき項目

  • EDR(Endpoint Detection and Response)の導入
  • 特権ID管理の強化(PIM/PAM)
  • ISMAP登録クラウドサービスの利用
  • 脆弱性管理の体制構築
  • SBOM対応の検討

クラウドサービスでの対策マッピング

統一基準の要求事項Microsoft Azure / M365AWSGoogle Cloud
主体認証・多要素認証Entra ID MFA + 条件付きアクセスIAM + MFA / AWS SSOCloud Identity + 2段階認証
アクセス制御・最小権限Entra ID RBAC + PIMIAM ポリシー + AWS OrganizationsCloud IAM + Organization Policy
端末の暗号化Intune + BitLockerSystems Manager + デバイス管理Chrome Enterprise + BeyondCorp
不正プログラム対策(EDR)Defender for EndpointGuardDuty + InspectorSecurity Command Center
ログの取得・保存統合監査ログ / SentinelCloudTrail + CloudWatch LogsCloud Audit Logs + Chronicle
情報漏洩防止(DLP)Purview DLPMacieCloud DLP
暗号化(保存・転送)Azure Encryption / TLSKMS + S3デフォルト暗号化Cloud KMS + デフォルト暗号化
脆弱性管理Defender 脆弱性管理Inspector + Systems ManagerSecurity Command Center

BTNコンサルティングの支援

統一基準群準拠アセスメント

現在のIT環境・セキュリティ対策状況を統一基準群の要求事項に照らして評価し、ギャップと対応ロードマップを報告します。

クラウドサービスによる統一基準対応の実装

Microsoft 365(Entra ID / Intune / Defender / Purview)、AWS(IAM / GuardDuty / CloudTrail)、Google Cloud(Cloud IAM / Security Command Center)など、お客様の環境に応じたクラウドサービスで統一基準の技術的要件を実装します。

セキュリティポリシー策定支援

統一基準群が求める3層構造のセキュリティポリシー(基本方針・対策基準・実施手順)の策定を支援します。

関連記事

中小企業のIT事業者向けに統一基準群の概要をまとめた記事もあわせてご覧ください。
→ 政府統一基準群とは?中小企業のIT事業者が知っておくべきポイントと対応策

よくある質問

政府統一基準群は民間企業にも適用されますか?

すべての政府機関・独立行政法人が準拠義務を負う基準ですが、政府情報システムの調達・運用に関わる民間事業者にも間接的に適用されます。特に第4部(外部委託)は、政府の情報システムを受託する民間事業者が直接準拠すべき最重要パートです。

統一規範・統一基準・ガイドラインの違いは?

統一規範が原則、統一基準が遵守事項、ガイドラインが実装方法という3層構造です。統一基準は「何をすべきか」を抽象的に記載しているため、RFPへの対応や提案書作成では、具体的な実装方法が記載されたガイドラインを参照するのが実務的です。

民間事業者が最優先で対応すべき項目は?

情報セキュリティポリシーの策定(基本方針・対策基準・実施手順の3層構造)、多要素認証(MFA)の全社導入、インシデント対応手順の整備と委託元への報告体制の構築です。次の段階としてEDRの導入、特権ID管理(PIM/PAM)の強化、ISMAP登録クラウドサービスの利用を進めます。

令和7年度版では何が変わりましたか?

NISCの国家サイバー統括組織(NCO)への改組、境界型防御からゼロトラストアーキテクチャへの移行推奨、IoT機器のセキュリティ適合性評価制度JC-STARの導入、SBOM(ソフトウェア部品表)の作成・管理の推奨、ISMAPクラウドサービスリストからの選定の原則化が主な改定点です。

Microsoft 365やAWSで統一基準に対応できますか?

主要クラウドサービスで技術的要件の多くを実装できます。主体認証・多要素認証はEntra IDのMFAと条件付きアクセス、AWSならIAM+MFA、アクセス制御と最小権限はEntra ID RBAC+PIM、AWSならIAMポリシーといった形で対応づけられます。

対応の核となる領域はどこですか?

MFA(主体認証)、暗号化、ログ管理、インシデント対応の4領域です。第5部(情報システムのセキュリティ機能)が求める技術的要件と、第7部(インシデント対応)がその中心にあたります。

まとめ

政府統一基準群は、統一規範(原則)→ 統一基準(遵守事項)→ ガイドライン(実装方法)の3層構造で構成されています。民間事業者にとって最も重要なのは第4部(外部委託)と第5部(セキュリティ機能)であり、MFA、暗号化、ログ管理、インシデント対応の4領域が対応の核となります。Microsoft 365、AWS、Google Cloudなどの主要クラウドサービスを活用すれば、統一基準の主要な技術的要件を効率的に満たすことが可能です。