GSS端末とは、デジタル庁のガバメントソリューションサービス(GSS)を使う府省庁等の職員に配られる、SIMフリーのノートPCです。eSIMで閉域のモバイル回線につながり、庁舎でも出張先でも自宅でも同じ業務環境に入れます。端末は「ネットワーク基盤」「GSS-NW」「GSS業務環境」の3層のうち最上位の業務環境に属し、顔認証や多要素認証、Microsoft Defender for Endpointによる端末防御を前提に設計されています。
利用は2026年7月末時点で独立行政法人等を含む23機関・約15.4万人に広がりました。一方、2026年9月に公表された不正アクセス事案の入口は端末ではなくVPN機器の脆弱性と保守運用アカウントで、端末防御だけではゼロトラストは完成しないことも同時に示しています。
GSSについてはGSSとは|デジタル庁ガバメントソリューションサービスの全体像で3層構造やG-Netを解説しました。本記事はその派生として、検索で問い合わせの多い「GSS端末」に絞り、端末の定義と仕様、GSS環境の中での位置づけ、利用機関の推移、そして2026年9月の事案が端末防御に投げかけた論点を、デジタル庁の公開資料に基づいて整理します。
GSS端末とは
GSS端末の定義は、デジタル庁の調達文書に明記されています。令和8年度の「ガバメントソリューションサービスに係るモバイル端末等用通信回線サービス等」の調達では、次のように書かれています。
「本調達関係省庁職員が業務において利用するSIMフリーノート型端末(以下「GSS端末」という。)をGSSの提供するネットワークと接続するために、GSSがモバイルアクセスサービスを提供する」
つまりGSS端末とは、GSSを利用する府省庁等の職員が使う業務用ノートPCの呼び名であり、次の3つの条件を満たします。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| SIMフリーのノート型端末 | 特定キャリアに縛られない端末に、GSSが調達したデータ通信専用のeSIMを入れて使う |
| GSSのネットワークに接続 | 庁内LANだけでなく、閉域のモバイル回線を通じてGSSのネットワークにつながる |
| ゼロトラスト前提の端末防御 | 境界型防御に端末防御を加え、端末の状態と通信を常に監視する設計 |
従来の府省庁の業務用PCは、庁舎内のLANに接続して初めて業務システムに入れる「境界型」の前提で作られていました。GSS端末はその前提を捨て、端末そのものがどこにあっても同じ条件で認証と検査を受ける設計になっています。
GSS環境の全体像と端末の位置づけ
デジタル庁の政策評価資料は、GSSのネットワーク構造を3つの層で説明しています。端末はこのうち最上位の層に含まれます。
| 層 | 名称 | 内容 | 端末との関係 |
|---|---|---|---|
| 1 | 基盤となるネットワーク | ダークファイバー等の物理回線、VNE網、モバイル閉域網、専用線、共用のネットワーク機器 | 端末が使うモバイル閉域網はこの層 |
| 2 | GSS-NW | 物理基盤の上に各府省専用に作る論理ネットワーク。府省間をつなぐGSS G-Netを含む | 端末は所属府省の論理ネットワークに入る |
| 3 | GSS(業務環境) | 業務端末、グループウェア等の業務環境 | GSS端末はここに属する |
物理ネットワークは府省で共用し、その上に府省ごとの論理ネットワークをオーバーレイで重ねる構成です。人事院には人事院のネットワーク、農林水産省には農林水産省のネットワークが論理的に分かれて存在し、GSS端末はそれぞれの論理ネットワークに参加します。
ガバメントクラウドとの関係も整理しておきます。GSS端末は職員の手元、G-Netは府省間の論理ネットワーク、ガバメントクラウドは行政システムの実行基盤です。端末からガバメントクラウド上のシステムへは、G-Netを経由して接続します。詳しくはガバメントクラウドとはを参照してください。
GSS端末の仕様
端末そのものの詳細仕様書は公開されていませんが、令和8年度のモバイル回線調達の要件定義書と質問回答から、端末と通信の要件が読み取れます。
| 項目 | 調達文書に記載された要件 |
|---|---|
| 想定機種 | Dynabook RJ73/MY、Dell Pro 13 Plus、HP EliteBook X G1i 14 AI、VAIO Pro PG8・1j(デジタル庁が調達予定の端末仕様を満たす機種として例示) |
| SIM | 技術基準に適合したLTE通信機能を持つGSS端末で使えるデータ通信専用のeSIM |
| 回線 | 閉域網。eSIMを割り当てた端末にはデジタル庁が指定するIPv4アドレス(シェアードIPまたはプライベートIP)を直接割り当てる |
| IPv6 | GSSはIPv6を前提としており、これまでに構築した環境でもIPv6を利用 |
| 利用機関の分離 | SIMに割り当てるIPアドレスを利用機関単位の「アドレスグループ」にまとめ、VRFなどでルーティングを分離 |
| 使用量管理 | Web APIで各回線(各eSIM)の使用量を確認でき、省庁などをノードとする木構造でSIMを管理 |
| eSIMの再発行 | 年度ごとに発行総数の30%を上限とする回数まで調達の範囲内で対応 |
| 拠点の副回線 | 主回線をLTEとする拠点の副回線にもLTE回線のSIMを使用 |
ここから分かるのは、GSS端末が「PCにSIMを挿しただけの構成」ではないことです。回線は利用機関ごとに論理的に分離され、使用量は機関単位の階層で管理され、端末の機種は複数ベンダーから選ばれます。端末調達と回線調達が別々に行われ、相互接続性を調達要件で担保する仕組みです。
GSS端末と同じ「どこにいても同じ条件で認証と端末検査を受ける」設計は、Intuneと条件付きアクセスで民間の企業にも構築できます。端末管理の設計から運用代行までご支援しています。
Intune 運用支援 を見る →Entra ID コンサルティング端末の認証とセキュリティ
デジタル庁の政策評価資料は、GSSの業務PCの特徴を「クラウド利用とゼロトラストセキュリティにより柔軟な働き方とセキュアを両立」と説明し、次の2点を挙げています。
- 柔軟な働き方:テレワーク実施可能率100%、業務支援ツール導入率100%
- セキュアな環境:これまでの境界型防御に加えて、ゼロトラストセキュリティ(端末防御)の考え方を導入。境界型防御と端末防御の組み合わせで実現
同資料は境界型防御の限界として「なりすましメール等により巧みに社内に侵入」「一旦中に入れば攻撃の横展開が容易」を挙げ、ゼロトラストでは「全ての通信において都度認証が要求される」「端末や通信の挙動を常に監視し即時の遮断等で横展開を防ぐ」と整理しています。
端末の具体的な認証・防御の要素として、公開情報から次が確認できます。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 認証 | 顔認証、パスワードとワンタイムパスワードの組み合わせ、多要素認証、シングルサインオン |
| 業務ソフトウェア | Microsoft 365(Teams、SharePoint等のグループウェア) |
| 端末防御 | Microsoft Defender、Microsoft Defender for Endpoint |
| 監視 | SOC(セキュリティ運用センター)による24時間体制 |
これは民間企業がMicrosoft 365 E3/E5やBusiness Premiumで組むゼロトラスト構成と同じ部品です。条件付きアクセスで端末の準拠状態を確認し、Defender for Endpointで端末の挙動を監視し、異常があれば端末を隔離する。GSSはこの構成を政府規模で運用している例と言えます。
GSS利用機関と導入の推移
GSSは2021年度(令和3年度)にデジタル庁自身で利用が始まり、府省庁のネットワーク更改を契機に順次移行しています。政策評価資料(2024年5月)に記載された導入時期と規模は次のとおりです。
| 機関 | 利用開始 | 拠点数 | ユーザー数 |
|---|---|---|---|
| デジタル庁 | 2021年度〜 | 2 | 約1,000 |
| 人事院 | 2022年9月〜 | 13 | 約700 |
| 農林水産省 本省 | 2022年10月〜 | 1 | 約5,500 |
| 個人情報保護委員会 | 2022年11月〜 | 1 | 約200 |
| こども家庭庁 | 2023年4月〜 | 3 | 約600 |
| 農林水産省 地方拠点 | 2023年4月〜 | 約1,200 | 約18,400 |
| 宮内庁 | 2023年9月〜 | 約50 | 約1,200 |
| 内閣府(内閣官房・復興庁を含む) | 2024年1月〜 | 約30 | 約5,500 |
| 消費者庁 | 2024年1月〜 | 2 | 約700 |
| カジノ管理委員会 | 2024年2月〜 | 1 | 約230 |
同資料の時点で導入準備中だった機関は、内閣法制局(約2拠点・約100人)、金融庁(約7拠点・約2,300人)、総務省(約73拠点・約6,000人)、環境省(約130拠点・約3,500人)、法務省(約1,055拠点・約18,700人)、国税庁(約578拠点・約68,600人)で、合計で約1,800拠点・約99,000ユーザーに達する計画でした。
その後の実績は計画を上回っています。2025年7月時点で14機関・約1,400拠点・約4.5万人、2026年7月末時点では独立行政法人等を含む23機関・約15.4万人がGSSを利用しています(2026年9月11日のデジタル庁公表資料に関するQ&Aより)。国税庁のような大規模機関の移行が進んだことで、利用者数は1年で3倍以上になりました。
2026年1月の調達では、内閣府等、財務省、法務省保護局、人事院が「本調達関係省庁」として挙げられており、財務省への展開も進んでいることが分かります。
職員の働き方はどう変わったか
デジタル庁ニュースは、GSS端末を導入した機関の職員の声を複数回取り上げています。端末に関わる部分を抜き出すと、変化は次の4点に集約されます。
- テザリングが不要になった:環境省の大雪山国立公園管理事務所では、従来はスマートフォンのテザリングで接続していたが、SIMを内蔵したGSS端末により外出先でもオフィスと同様の事務作業ができるようになった。複雑な認証手続きが省け、山中からオンライン会議に参加し資料共有もできる
- 海外出張に端末を持っていける:人事院では、海外出張にもそのまま端末を持っていける運用になり、国際会議にも簡単に出席できるようになった
- 現場に業務用PCを持ち出せる:農林水産省では、GSS端末である自分の業務用PCを現場に持って行って作業し、リアルタイムで情報共有できるようになった
- 共同編集が可能になった:こども家庭庁では、以前は1つの案件に100通以上のメールが寄せられ添付ファイルを1つずつ開いて集計していたが、100人が同時に同じファイルに入力できるようになった
いずれも端末単体の性能ではなく、「端末がどこにあっても同じ業務環境に入れる」というGSSの設計から生まれた変化です。個人保有端末の業務利用(BYOD)についても、セキュリティ強化により可能になったことが環境省の事例で触れられています。
2026年9月の不正アクセス事案から分かること
2026年9月11日、デジタル庁は「ガバメントソリューションサービスへの不正アクセスによる職員等の個人情報の漏えいの可能性について」を公表しました。公表資料に基づく経緯は次のとおりです。
| 日付 | 事象 |
|---|---|
| 2026年6月25日 | 保守運用担当者のアカウントを利用してサーバー上の大量のファイルへのアクセスが行われたことを検知 |
| 2026年7月9日 | 第三者がネットワーク接続機器(VPN)の脆弱性を利用してシステムに侵入していたことが判明。同日、当該アカウントの停止と外部通信の遮断を実施 |
| 2026年7月15日 | 個人情報保護委員会へ報告 |
| 2026年9月11日 | 個人情報漏えいの可能性を公表 |
漏えいの可能性がある情報は氏名、メールアドレス、電話番号、住所等の約24.6万件(職員等約18.9万件、事業者・個人約5.7万件)で、マイナンバー、金融機関口座情報、年金番号は含まれていません。再発防止策として、脆弱性管理方法の見直しと外部接続方法の改善が挙げられています。
GSS端末の観点で重要なのは、入口が端末ではなかったことです。侵入経路はVPN機器の既知の脆弱性で、その後の大量アクセスには保守運用担当者のアカウントが使われました。端末防御(Defender for Endpoint等)は職員の端末上の挙動を監視しますが、外部接続機器の脆弱性と保守用の特権アカウントは端末の外側にあります。
これはセキュリティ製品を減らすと「機能が減る」と言われたときの考え方で述べた、「端末を監視しても見えない領域は見えないままである」という論点そのものです。ゼロトラストを「端末防御」と読み替えると、外部接続と特権アカウントが抜け落ちます。GSSの事案は、政府規模の構成でもこの抜けが起きることを示しました。
IT事業者・自治体にとっての意味
GSS端末に関わる調達は、端末本体、モバイル回線、運用サポートなどに分かれて実施されます。令和8年度のモバイル回線調達の質問回答からは、応札事業者に求められる条件が具体的に読み取れます。
- 統一基準への準拠:「政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準」の令和7年度版に準拠したセキュリティ対策を講じること。詳しくは政府統一基準群とはを参照
- 品質・情報セキュリティの認証:JIS Q 9001/ISO 9001またはCMMIレベル3相当、およびJIS Q 27001/ISO/IEC 27001に基づく認証(質問を受けて記載修正の回答あり)
- 規模実績:本調達の回線数規模程度のSIM発行サービスや閉域SIM構築の実績
- 技術要件:IPv6対応、利用機関単位のVRF分離、Web APIによる使用量管理、データセンター単位での回線冗長(4回線)
自治体にとっては、LGWANとGSSの閉域接続が進むことで、国の機関とのやり取りがGSS端末の環境を前提にしたものになっていきます。LGWANと三層分離の全体像はLGWANとはで解説しています。
民間企業にとっての意味は、GSS端末の構成がそのまま「政府が採用した端末管理の標準形」を示している点です。SIM内蔵の持ち出し端末、多要素認証、端末の準拠状態に基づくアクセス制御、EDRによる監視という組み合わせは、Microsoft 365とIntuneで同じものが組めます。取引先の官公庁から求められるセキュリティ水準を考えるうえでも、参照点になります。
よくある質問
GSS端末とは何ですか。
デジタル庁のガバメントソリューションサービス(GSS)を利用する府省庁等の職員が業務で使う、SIMフリーのノート型端末です。デジタル庁の調達仕様書では「本調達関係省庁職員が業務において利用するSIMフリーノート型端末(以下「GSS端末」という。)」と定義され、GSSが提供するモバイルアクセスサービスのeSIMを入れて、庁舎外からもGSSのネットワークに接続します。
GSS端末にはどの機種が使われていますか。
令和8年度のモバイル回線調達の要件定義書には、デジタル庁が調達予定の端末仕様を満たす想定機種として、Dynabook RJ73/MY、Dell Pro 13 Plus、HP EliteBook X G1i 14 AI、VAIO Pro PG8・1jの4機種が挙げられています。調達ごとに機種は変わるため、特定の1機種に固定されているわけではありません。
GSS端末は庁舎の外でも使えますか。
使えます。SIMを内蔵して閉域のモバイル回線に接続するため、出張先や自宅、山中の現場からでも庁舎と同じ業務環境に入れます。人事院では海外出張に端末をそのまま持っていく運用、環境省の大雪山国立公園管理事務所では山中からオンライン会議に参加する運用が、デジタル庁ニュースで紹介されています。
GSS端末とGSSネットワーク(G-Net)、ガバメントクラウドはどう違いますか。
GSS端末は職員が手元で使う業務用PC、GSSネットワーク(G-Net)は府省間をつなぐ論理ネットワーク、ガバメントクラウドは行政システムが動く実行基盤です。端末はG-Netを経由してガバメントクラウド上のシステムに接続します。役割が異なる3つの層で、競合するものではありません。
2026年9月の不正アクセス事案はGSS端末が原因ですか。
公表資料では、第三者がネットワーク接続機器(VPN)の脆弱性を利用してシステムに侵入し、保守運用担当者のアカウントでサーバー上の大量のファイルにアクセスしたとされています。端末側の防御が破られたのではなく、外部接続機器と保守用アカウントという端末の外側が入口でした。端末防御を強くしても外部接続と特権アカウントの管理が弱ければ守れない、という教訓です。
まとめ
- GSS端末は、GSSを利用する府省庁等の職員が使うSIMフリーのノートPCで、eSIMによる閉域モバイル回線でどこからでもGSSのネットワークに接続します。
- GSS環境は「基盤となるネットワーク」「GSS-NW」「GSS業務環境」の3層で、端末は最上位の業務環境に属します。物理網は府省で共用し、論理網は府省ごとに分離されます。
- 調達文書からは、想定機種4種、データ通信専用eSIM、IPv6前提、利用機関単位のVRF分離、Web APIによる使用量管理といった要件が読み取れます。
- 端末の防御は顔認証・多要素認証・Defender for Endpoint・24時間SOCの組み合わせで、民間のMicrosoft 365ゼロトラスト構成と同じ部品です。
- 利用は2026年7月末時点で23機関・約15.4万人。2026年9月の不正アクセス事案の入口はVPN機器の脆弱性と保守運用アカウントで、端末防御だけではゼロトラストが完成しないことを示しました。
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