この記事の結論

2026年上半期のセキュリティインシデントは、すべてが同じように急増しているわけではありません。前年同期と比べて、警察庁が観測した不審なアクセスは50.7%増、ランサムウェア被害報告は6.0%増(半期として統計開始以来最多)、JPCERT/CCのインシデント件数は35.6%増(増加分の大半はフィッシングサイト)でした。一方、フィッシング対策協議会への報告は約38.9%減っています。民間集計では不正アクセスが公表組織数の最多分類で、業務外利用・不正持出は約3.7倍、委託先1件の被害が数十組織の公表につながる波及も確認できます。企業は単一の増加率ではなく、自社の業務に関係する被害の入口と影響を見て、外部公開資産の管理、アカウントの保護、委託先停止への備え、情報の取り扱い、復旧の検証を優先して点検すべきです。

2026年に入って、企業や自治体の情報漏えい、サービス停止、不正アクセスのニュースが増えたと感じる人は多いでしょう。実際に増えている指標はあります。ただし、公表統計を確認すると、すべてのセキュリティインシデントが同じように急増しているわけではありません。

国内の2026年上半期では、警察庁が観測した不審なアクセスは前年同期比50.7%増、ランサムウェアの被害報告は6.0%増でした。一方、フィッシング対策協議会への報告件数は約38.9%減っています。企業が理解すべきなのは、この増減の違いと、被害が複数の組織へ広がる構造です。また、民間集計では不正アクセスが公表組織数の最多分類となっており、情報窃取やサービスの不正利用にも目を向ける必要があります。[資料5]

本記事では、2026年10月3日までに確認できた公表資料を使い、主に2026年1〜6月と2025年1〜6月を比較します。年途中のため、2026年通年の前年比はまだ示せません。対象は日本の企業・組織に関係するセキュリティ動向を中心とし、個人向けの特殊詐欺全体は含めません。

前年同期比で見る増えた指標と減った指標

指標と集計主体2025年1〜6月2026年1〜6月前年同期比
不審なアクセスの観測数/警察庁9,085件13,687件50.7%増
ランサムウェア被害報告/警察庁116件123件6.0%増
インシデント件数の四半期公表値合計/JPCERT/CC14,429件19,567件35.6%増
うちフィッシングサイト/JPCERT/CC12,625件17,606件39.5%増
フィッシング報告/フィッシング対策協議会約119.6万件約73.1万件約38.9%減

出典は末尾の資料1〜4。不審なアクセスは「1日・1IPアドレス当たり」の観測数で、半年間の総件数ではありません。JPCERT/CCは国内外の報告を受け付けており、日本国内の被害企業数とは異なります。同センターの数値は1〜3月と4〜6月の公表値を足したもので、四半期をまたぐ同一事案の重複排除を独自に行った値ではありません。フィッシング報告の増減率は、警察庁掲載の丸められた値から計算した概算です。各行は対象が重なるため、合算できません。

大きく増えたのは侵入先を探す活動

最も増加が大きい指標の一つが、警察庁のセンサーが捉えた、脆弱性の探索などを含む不審なアクセスです。1日・1IPアドレス当たり9,085件から13,687件となり、約1.5倍に増えました。[資料1]

これは侵入や情報漏えいが成功した件数ではありません。インターネットに接続された機器やサービスに対し、利用できる弱点がないかを探る通信などを数えています。「国内の被害が51%増えた」と言い換えるのは不正確です。

企業への示唆は、外部から接続できる機器やサービスの管理を後回しにしにくい環境になっていることです。自社が有名かどうかにかかわらず、公開しているVPN機器、サーバー、管理画面などを把握し、不要な公開を減らし、更新の担当者と期限を決める必要があります。これは観測結果から導く本記事の実務上の提案です。外部公開資産を洗い出す手法はASM(攻撃対象領域管理)の基本と無料ツールで解説しています。

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不正アクセスは情報窃取やサービスの不正利用にもつながる

ここでいう不正アクセスは、権限のない第三者がシステムやアカウントへ入り込み、情報を盗む、Webサイトを改ざんする、メール送信の踏み台にするなどの行為です。前節の「不審なアクセス」は探索段階の通信も含む観測値であり、実際に侵入された組織の公表件数とは区別する必要があります。

デジタルアーツの集計では、2026年上半期の「不正アクセス」は267件で、全727件の約36.7%を占め、分類別で最多でした。直前の2025年下半期は285件で、前期比では18件、6.3%の減少です。これは公開報告書や報道を基に数えた公表組織数であり、国内すべての不正アクセスの発生件数ではありません。[資料5]

比較対象不正アクセスに分類された公表組織数
2025年下半期285件
2026年上半期267件
前期比18件減少で6.3%減

この6.3%減は前年同期比ではありません。本記事では、同じ集計版における2025年上半期の値を確認できていないため、不正アクセスの前年同期比は示していません。「不審なアクセスが50.7%増えた」という警察庁の観測値を、不正アクセス被害の増加率として使うこともできません。

不正アクセスでは、ランサムウェアのようにファイルが暗号化されなくても、情報の流出やアカウントの不正利用が起こり得ます。なお、デジタルアーツの統計ではランサムウェア感染を「マルウェア感染」に分類しているため、「不正アクセス」267件を侵入を伴うすべての被害の総数とは扱えません。[資料5]

対策として本記事では、公開機器の更新に加え、メールやクラウドの多要素認証、不要なアカウントと権限の削除、ログインやデータ取得の異常を確認できるログの保存・監視を提案します。侵入を防ぐ対策と、侵入後に気づいて利用を止める対策の両方を整えることが重要です。

ランサムウェアは半期最多だが増加率は約6%

警察庁へのランサムウェア被害報告は、前年同期の116件から123件へ7件増加しました。統計が始まった2020年下半期以降、半期として最多です。ただし、前年比で何倍にも膨らんだという状況ではなく、高い水準からさらに増えたと読むのが適切です。[資料1 本文9ページ]

報告件数は警察が把握した範囲であり、国内の全被害を網羅する数字ではありません。また、件数だけでは、停止した業務の範囲、流出した情報量、復旧の負担を評価できません。公表された個別事例から業界・身代金額・復旧期間を整理したものはランサムウェア被害 公表事例150社まとめ2026をご覧ください。

経営上は、感染を防ぐ対策に加えて、被害が起きたときに業務を戻せるかを確認する必要があります。バックアップの取得状況だけでなく、復元できること、通常の管理者アカウントが侵害されてもバックアップを守れること、復旧の優先順位が決まっていることまで確認するのが、本記事の提案です。

報告されたインシデントの増加はフィッシングサイトが中心

JPCERT/CCの四半期公表値を上半期分で合計すると、インシデント件数は14,429件から19,567件へ35.6%増えています。そのうちフィッシングサイトは12,625件から17,606件へ39.5%増加しました。差分で見ると、全体の増加5,138件のうち4,981件をこの分類が占めます。[資料2〜4より計算]

この集計の増加を、そのまま企業への侵入被害の増加と理解することはできません。偽サイトについて寄せられた報告が大きく影響しているためです。

また、4〜6月だけを比較すると、インシデント件数の増加率は11.5%です。上半期合計の35.6%増を根拠に「最近になるほど増加が加速している」とは言えません。期間をそろえることに加えて、期間内の推移も見る必要があります。

委託先の被害が多数の企業の公表につながる

インシデントのニュースを読む際は、攻撃の起点と影響を受けた組織数を区別することも大切です。

デジタルアーツの2026年上半期集計では、不動産業者向けクラウドサービスへの不正アクセスに関連して67件、ISP事業者向けメールシステムへの不正アクセスに関連して25件が計上されています。同社は委託先と委託元がそれぞれ公表した場合、各組織を1件として数えています。[資料5]

このような波及では、一つの起点から多数の公表が生まれます。個別ニュースが増えたという実感を説明する要素にはなりますが、独立した攻撃の回数が同じだけ増えたことを意味しません。また、この事例だけから、サプライチェーン経由の被害全体の前年比は算出できません。

企業にとっては、自社設備の安全性に加えて、依存するサービスが止まったときの業務継続が課題になります。重要な委託先について、扱うデータ、障害時の連絡先、代替手順を確認しておくことが有効です。取引先・委託先との取り決めを制度の要件として整理したものはSCS評価制度「取引先管理」の要件で解説しています。

情報の持ち出しやSNS投稿による漏えいも増加

デジタルアーツの同じ集計では、「業務外利用・不正持出」が55件となり、前年同期の約3.7倍に増えています。このうち14件は従業員のSNS投稿をきっかけとした情報漏えいでした。[資料5]

これは同社が公開情報から収集・分類した範囲での増加です。国内すべての内部不正が3.7倍になったという意味ではなく、SNS投稿をすべて悪意ある持ち出しとみなすことも適切ではありません。

外部からの侵入を防ぐ製品だけでは、撮影した写真への画面や資料の写り込みには対応しきれません。本記事では、職場で撮影してよい場所と対象を具体化し、投稿前に確認する情報を教育に組み込むことを提案します。内部不正対策の体系的な観点は内部不正防止ガイドライン(IPA)第5版の解説を参考にしてください。

フィッシングは報告件数の減少と手口の変化を分けて見る

フィッシング対策協議会への上半期の報告は約119.6万件から約73.1万件へ減少しました。8月単月でも、前年の193,333件に対して2026年は82,338件で、57.4%減です。少なくともこの指標について「今年は前年より急増」とするのは誤りです。[資料1、6、7]

JPCERT/CCのフィッシングサイト件数が増えていることとも矛盾しません。受け付けた報告の数と、同一事案への複数報告を整理したインシデントの数は別の指標です。集計対象と受付経路も一致しません。いずれも、認証情報を盗まれた人数そのものではありません。

一方、フィッシング対策協議会の6月報告には、国内ISPのメールアカウントを不正利用して送信されたとみられるメールや、正規サービスのドメインを悪用する誘導が記載されています。8月報告にも、正規サービスのホスト名の利用や、迷惑メールフィルターの回避を狙う細工が見られます。[資料6、8]

報告が減ったことと、一通の不審メールを見抜きやすくなったことは同じではありません。企業は教育とメール対策に加え、利用できるサービスからパスキーなどフィッシング耐性のある認証を活用し、送金や重要な変更には別経路で確認する手順を設けるべきです。事業者・利用者それぞれの対策はフィッシング対策ガイドライン2025の解説で整理しています。

企業が対策を決めるときの見方

2026年の公表データからは、侵入先を探す活動の増加、ランサムウェア被害の高止まり、報告されたフィッシングサイトの増加、情報の持ち出しなどの増加が確認できます。一方で、フィッシング報告のように前年より減っている数字もあります。

そのため、セキュリティインシデント全体について一つの増加率を掲げるよりも、自社の業務に関係する被害を選び、その入口と影響を確認することが重要です。本記事では、次の5点を優先的な点検対象として提案します。

点検対象根拠となる動向確認すること
外部公開資産の管理不審なアクセス50.7%増公開しているVPN機器・サーバー・管理画面の一覧、不要な公開の停止、更新の担当者と期限
アカウントの保護不正アクセスが公表組織数の最多分類メール・クラウドの多要素認証、不要なアカウントと権限の削除、ログイン・データ取得の異常を確認できるログ
委託先停止への備え委託先1件から67件・25件の公表に波及重要な委託先ごとの扱うデータ、障害時の連絡先、代替手順
情報の取り扱い業務外利用・不正持出が約3.7倍、うちSNS投稿14件撮影してよい場所と対象の具体化、投稿前に確認する情報の教育
復旧の検証ランサムウェア被害報告が半期最多バックアップの復元可否、管理者アカウント侵害時のバックアップ保護、復旧の優先順位

なお、今回の統計から「増加の何割が生成AIの悪用によるものか」は算出できません。手口の変化を説明することと、増加の原因を定量的に証明することは分けて扱う必要があります。

出典と計算方法

  1. 警察庁 令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について。本文5ページ・図表1、9ページ・図表4、17ページ・図表12を参照。ページ番号は冊子内の表記。
  2. JPCERT/CC 四半期レポート 2026年1月1日から3月31日。表1.1・表1.2。
  3. JPCERT/CC 四半期レポート 2026年4月1日から6月30日。表1.1・表1.2。
  4. JPCERT/CC 四半期レポート 2025年4月1日から6月30日。表1.1・表1.2。2025年1〜3月は同表の「前四半期合計」を使用。
  5. デジタルアーツ 2026年上半期国内セキュリティインシデント集計。2026年7月28日公開。公開報告書・報道に基づく独自集計で、過去値の追加・分類見直しがあり得る。
  6. フィッシング対策協議会 2026年8月 フィッシング報告状況。
  7. フィッシング対策協議会 2025年8月 フィッシング報告状況。
  8. フィッシング対策協議会 2026年6月 フィッシング報告状況。

前年同期比は原則として「2026年の値 ÷ 2025年の同期間の値 − 1」で計算し、小数第1位に丸めています。異なる統計の件数を合算した国内総数や、未公表期間を推計した年計は示していません。

よくある質問

2026年のセキュリティインシデントは前年より何%増えましたか?

一つの増加率では示せません。2026年1〜6月を2025年の同期間と比べると、警察庁が観測した不審なアクセスは50.7%増、ランサムウェア被害報告は6.0%増、JPCERT/CCのインシデント件数は35.6%増でしたが、フィッシング対策協議会への報告は約38.9%減っています。各統計は集計主体・対象・数え方が異なり合算できないため、「インシデント全体が何%増えた」という単一の数字は公表資料から算出できません。年途中のため2026年通年の前年比もまだ示せません。

警察庁の「不審なアクセス50.7%増」は国内の被害が1.5倍になったという意味ですか?

いいえ。この数値は警察庁のセンサーが捉えた1日・1IPアドレス当たりの観測数で、脆弱性の探索などインターネットに接続された機器の弱点を探る通信を数えたものです。侵入や情報漏えいが成功した件数ではなく、「国内の被害が51%増えた」と言い換えるのは不正確です。企業への示唆は、公開しているVPN機器・サーバー・管理画面などへの探索が増えており、外部から接続できる資産の把握と更新を後回しにしにくくなっていることです。

フィッシングは2026年に減ったと考えてよいですか?

報告件数は減りました。フィッシング対策協議会への報告は2026年上半期で約73.1万件と前年同期の約119.6万件から約38.9%減少し、8月単月でも57.4%減です。一方、JPCERT/CCが扱ったフィッシングサイトのインシデントは39.5%増えており、受け付けた報告の数と、同一事案を整理したインシデントの数は別の指標です。また、正規サービスのドメインやホスト名の悪用、国内ISPのメールアカウントの不正利用など手口は変化しており、報告が減ったことと一通の不審メールを見抜きやすくなったことは同じではありません。

増加のうち生成AIの悪用による分はどれくらいですか?

今回取り上げた統計からは算出できません。警察庁、JPCERT/CC、フィッシング対策協議会、デジタルアーツのいずれの集計も、攻撃に生成AIが使われたかどうかで件数を分けていないためです。フィッシングメールの文面や誘導手口の変化を説明することと、増加の原因を定量的に証明することは分けて扱う必要があります。

まとめ

2026年上半期の公表統計で増えたのは、侵入先を探す不審なアクセス、ランサムウェア被害報告、JPCERT/CCが扱ったフィッシングサイト、業務外利用・不正持出です。減ったのは、フィッシング対策協議会への報告件数です。不正アクセスは公表組織数の最多分類ですが前年同期比は確認できておらず、委託先1件の被害が数十組織の公表につながる波及も、ニュースの増加感を説明する要素になっています。

これらの数字は集計主体・対象・数え方が異なり、合算も単一の増加率への置き換えもできません。自社の業務に関係する被害を選び、その入口と影響を確認することが、対策の優先順位を決める出発点です。外部公開資産の管理、アカウントの保護、委託先停止への備え、情報の取り扱い、復旧の検証の5点から点検を始めてください。