この記事の結論

フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は2024年11月1日に施行されました。従業員を雇用する企業がフリーランスに業務を委託する場合、取引条件の明示、受領日から60日以内の報酬支払、1か月以上の委託における7つの禁止行為の遵守などが義務になります。情シスの現場ではスポットのエンジニア委託、Webサイト制作、システム保守の再委託などが該当します。まず「誰に・どんな条件で発注しているか」の棚卸しから始めてください。

フリーランス新法とは

正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)といい、2024年11月1日に施行されました。企業とフリーランスの取引を適正化し、フリーランスの就業環境を整備することを目的としています。

用語意味
特定受託事業者(フリーランス)従業員を使用しない個人事業主または一人法人
業務委託事業者フリーランスに業務を委託する事業者
特定業務委託事業者業務委託事業者のうち、従業員を使用しているもの

重要なのは、義務の重さが発注側が従業員を雇用しているかどうかで変わる点です。従業員を雇用している企業(特定業務委託事業者)には、後述する多くの義務が課されます。

下請法との違い

下請法は資本金の額で適用の有無が決まりますが、フリーランス新法に資本金要件はありません。資本金1,000万円以下の企業でも、従業員を雇用していてフリーランスに発注していれば対象になります。「うちは下請法の対象外だから関係ない」という判断は成り立ちません。

情シスの現場で該当する取引

IT部門の業務では、次のような発注がフリーランス新法の対象になり得ます。

取引該当し得るケース
スポットのエンジニア委託個人事業主のエンジニアにサーバー構築やスクリプト作成を依頼する
Webサイト・LP制作個人のWebデザイナー・コーダーに制作を委託する
システム保守・運用の一部委託個人事業主に月次のサーバー保守を委託する
デザイン・資料作成個人のデザイナーに社内資料や図版の作成を依頼する
ライティング・翻訳個人のライター・翻訳者にマニュアルや技術文書を依頼する
ベンダーからの再委託受注したシステム開発の一部を個人事業主に再委託する

見落とされやすいのが最後の再委託です。自社が元請として受注した案件の一部を個人事業主に出す場合、自社が発注者としての義務を負います。

発注者に課される義務

すべての発注者に課される義務:取引条件の明示

フリーランスに業務を委託する際は、書面または電磁的方法(メール、チャット等)で取引条件を明示する必要があります。これは従業員を雇用していない発注者にも課される義務です。

明示すべき事項実務上のポイント
業務の内容「サーバー構築一式」ではなく、対象台数・OS・作業範囲まで書く
報酬の額算定方法でも可だが、後で争いにならない粒度にする
支払期日受領日から60日以内で具体的な日付を定める
発注者・受注者の名称屋号ではなく正式名称
業務委託をした日口頭で依頼した日ではなく、条件を確定した日
給付を受領する日・場所納品方法(リポジトリ、共有ストレージ等)まで具体化する

従業員を雇用する発注者に課される義務

義務内容適用条件
報酬の支払期日給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払うすべての委託
7つの禁止行為受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し1か月以上の委託
募集情報の的確表示広告等で募集する際に虚偽・誤解を生じさせる表示をしないすべての委託
育児介護等への配慮申出に応じて必要な配慮を行う6か月以上の委託
ハラスメント対策相談対応の体制整備など必要な措置を講じるすべての委託
中途解除等の事前予告契約を解除・不更新する場合は30日前までに予告し、求めがあれば理由を開示する6か月以上の委託

実務でとくに影響が大きいのは60日以内の支払30日前の解除予告です。月末締め翌々月末払いの支払サイトは60日を超える可能性があり、支払サイトの見直しが必要になるケースがあります。

違反したときのリスク

執行は公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省が担います。違反があった場合は行政による助言・指導、勧告、命令が行われ、命令に従わない場合は企業名の公表もあり得ます。

段階内容
助言・指導行政から改善を促される
勧告是正措置を求められる
命令・公表勧告に従わない場合、命令が出され企業名が公表され得る

金銭的な制裁以上に問題になるのが、企業名公表による信用の毀損です。とくに採用や取引先審査に影響します。

情シスが今すぐやること

Step作業期間目安
1. 発注先の棚卸し個人事業主・一人法人への発注を全件洗い出す。経費精算と支払明細から逆引きすると漏れにくい1〜2週間
2. 契約形態の確認1か月以上の委託か、6か月以上の委託かを分類する(適用される義務が変わる)1週間
3. 発注書テンプレートの整備明示6項目を漏れなく書ける発注書・注文請書の雛形を作る1〜2週間
4. 支払サイトの確認受領日から60日以内に収まっているかを経理と確認する1週間
5. 相談窓口の整備ハラスメント相談の受付体制を明確にし、発注先に周知する1〜2週間
見落としやすい発注先

「請求書は届いているが誰が発注したか分からない」個人事業主への支払が、経理データから出てくることがあります。SaaS契約の棚卸しと同じ要領で、支払先の一覧から法人/個人事業主を仕分けてください。IT関連はスポット発注が多く、部門ごとに散在しがちです。

BTNコンサルティングの支援

BTNコンサルティングでは、IT関連の外部委託先の棚卸しと契約整備を支援しています。個人事業主への発注を含むベンダー一覧の作成、発注書テンプレートの整備、SLAと契約条項の見直しまで、情シスの「対ベンダー業務」を実務レベルでご支援します。ITアウトソーシングと組み合わせ、外部委託そのものを整理・集約する方法もご提案できます。

関連サービス

外部委託先が部門ごとに散在している状態は、法令対応だけでなくコストとセキュリティの両面でリスクになります。棚卸しから契約整備までご支援します。

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よくある質問

フリーランス新法はいつ施行されましたか?

2024年11月1日に施行されました。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)です。

資本金が小さい会社も対象になりますか?

なります。下請法は資本金の額で適用の有無が決まりますが、フリーランス新法に資本金要件はありません。従業員を雇用していてフリーランスに発注していれば、資本金の規模にかかわらず対象です。

報酬はいつまでに支払う必要がありますか?

給付を受領した日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内に支払う必要があります。月末締め翌々月末払いの支払サイトは60日を超える可能性があるため、経理と確認してください。

7つの禁止行為とは何ですか?

受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用の強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しの7つです。1か月以上の業務委託を行う場合に適用されます。

IT業務委託ではどんな取引が対象になりますか?

個人事業主のエンジニアへのスポット委託、個人のWebデザイナーへの制作委託、個人事業主への月次のサーバー保守委託、デザインやライティングの依頼などです。自社が元請として受注した案件の一部を個人事業主へ再委託する場合も、自社が発注者としての義務を負います。

まとめ

フリーランス新法は2024年11月1日に施行され、下請法と異なり資本金要件がないため、規模を問わず多くの企業が対象になります。従業員を雇用している企業がフリーランスに発注する場合、取引条件の明示、受領日から60日以内の報酬支払、1か月以上の委託における7つの禁止行為の遵守、6か月以上の委託における30日前の解除予告などが義務です。情シスの現場ではスポットのエンジニア委託や制作委託、再委託が該当します。まず経費精算と支払明細から個人事業主への発注を全件洗い出し、発注書テンプレートと支払サイトを整えることから始めてください。