Microsoft 365からGoogle Workspaceへの移行は、サーバーを立てる時代からサーバーを立てない時代に切り替わりました。Google管理コンソールに組み込まれた「データ インポート(data import)」により、移行元テナントからGoogle Workspaceへ直接データをコピーできます。Google公式は、これによってM365からの移行が「最大5倍速くなる」と説明しています。
そして移行設計上の最重要事項がひとつあります。Google Workspace Migrate for Exchange Onlineは2026年10月に提供終了が公式に告知されており、Googleはadvanced data importへの切り替えを案内しています。現在Google Workspace Migrateでメール移行を計画している組織は、移行方式そのものを見直す時期に来ています。
何が変わったのか
従来、1,000名を超える規模のMicrosoft 365からの移行では、Google Workspace Migrate(GWM)というインストール型ツールが標準的な選択肢でした。GWMは移行専用のサーバー群を構築して使います。公式のシステム要件ではプラットフォームサーバーに4コア/16GB RAM、データベースサーバーに16コア以上/64GB RAMといった構成が求められ、移行のためだけに一時的なインフラを調達・構築し、終わったら廃棄するというプロジェクトが必要でした。
新しい「データ インポート」はこの前提を変えます。Google公式ブログ(Cloud Next 2026)は、この機能を「管理コンソールに組み込まれた新しいクラウド サービス」と説明し、メール・ファイル・会話を移行できるとしています。移行のためのVMもWindowsライセンスも不要で、管理者は管理コンソールから移行バッチを作成して実行するだけです。
移行元として対応するのは以下の4つのワークロードです。
| 移行元 | 対応 |
|---|---|
| Microsoft Exchange Online | メール、カレンダー、連絡先、タスク |
| Microsoft OneDrive for Business | ファイル・フォルダと権限 |
| Microsoft SharePoint Online | サイト内のファイル・フォルダと権限 |
| Microsoft Teams | チャネルの会話、1対1/グループチャット |
対応エディションは幅広く、Business Starter・Business Standard・Business Plus、Enterprise Standard・Enterprise Plus、Education各エディション、Essentials系、Nonprofits、G Suite Basic/Businessが対象です。ただしリセラーが顧客のデータをインポートすることはできない点は、パートナー経由で導入する場合に必ず押さえてください。
Google Workspace Migrate(Exchange Online)は2026年10月に終了
移行方式を検討している組織にとって、いま最も重要な事実がこれです。Google Workspace Migrateのサポートページには、次の告知が掲載されています。
Beginning October 2026, Google Workspace Migrate for Exchange Online will no longer be available. Switch to the advanced data import tool.
つまり 2026年10月以降、Exchange Onlineからの移行にGoogle Workspace Migrateは使えません。advanced data importへの切り替えが公式の推奨です。
影響を受けるのは主に次のようなケースです。
- 現在GWMでのメール移行を前提に見積り・スケジュールを組んでいる案件
- 段階移行を採用しており、移行期間が2026年10月をまたぐ案件
- GWMの運用手順を前提に社内手順書・委託仕様書を整備している組織
なお、SharePoint/OneDrive/Teams/Box/ファイル共有からの移行を扱うGoogle Workspace Migrateについては、今回確認した範囲では終了告知は見当たりませんでした。終了が明言されているのはExchange Online向けです。
Microsoft 365からGoogle Workspaceへの移行を、方式選定・アセスメント・移行計画の策定までワンストップでご支援しています。
Google Workspace導入コンサルティング を見る →ITコンサルティングdefaultとadvancedの違い
データ インポートには「default data import」と「advanced data import」の2系統があります。この違いを理解しないまま計画を立てると、移行期間の見積りを大きく外します。
決定的な差は APIクォータをどう確保するかです。defaultはGoogleが用意した共有APIクォータを使うため準備が軽い代わりに規模の上限が低く、advancedは移行元テナント側に専用のアプリ登録を行って専用クォータを確保するため、大規模な並列処理ができます。
| 項目 | default data import | advanced data import |
|---|---|---|
| APIクォータ | Googleの共有クォータ | Microsoft Entraのアプリ登録による専用クォータ |
| Exchange Onlineの規模 | 一度に最大1,000ユーザー | 1バッチ最大5,000ユーザー / 同時最大10バッチ |
| OneDriveの規模 | 一度に最大500ユーザー | 1バッチ最大5,000ユーザー / 同時最大4バッチ |
| SharePoint Onlineの規模 | ― | 1バッチ最大5,000サイト / 同時最大4バッチ |
| Teamsの規模 | ― | 1バッチ最大1,000チーム / 同時最大10バッチ |
| 準備の重さ | 軽い | Microsoft側のアプリ登録と権限承認が必要 |
CSVファイルのサイズはいずれも10MB未満という制約があります。数千ユーザーを一度に投入する場合、CSVの分割自体が作業項目になる点は覚えておいてください。
規模感の目安としては、数百ユーザーまでならdefault、1,000ユーザーを超えるならadvanced と考えると設計を外しません。ただしdefaultであっても、Exchange Onlineで一度に扱えるのは1,000ユーザーまでですから、1,000ユーザー前後の組織は「defaultで複数回に分ける」か「advancedで一気にやる」かの選択になります。移行期間の要件次第です。
移行前アセスメント:Migration Planner
移行計画で最も難しいのは「どれくらい時間がかかるか」を移行前に見積もることです。Googleはこのために Migration Planner というデスクトップ アプリケーションをGitHubで公開しています。
Migration Plannerは「移行前にMicrosoftテナントをアセスメントするためのツール」と位置づけられており、次の特徴があります。
- デスクトップ アプリケーションとして提供される(Python 3.10以上、Windows/macOS/Linux対応)
- スキャン対象はExchange Online(メール・連絡先・カレンダー・インプレース アーカイブ・グループ メール)、Microsoft Teamsとチャット(チャネル・プライベート チャット)、Files(OneDrive/SharePointのサイト・ドライブ)
- 出力として、ユーザー単位の詳細を含むCSVレポート、データ インポートにそのまま投入できる形式のバッチ用CSV、実行ログを生成する
ここで注目したいのは、インストール型として提供されている理由です。移行時間を見積もるには移行元テナントの実データを参照する必要があります。Googleがサードパーティのサービス上にある顧客データを直接参照しないよう、お客様側で用意した環境で実行する構成が採られています。エアギャップ環境やデータ持ち出し制限の厳しい組織でも、この点は説明しやすい設計です。
実務上の使い方はシンプルで、提案フェーズでMigration Plannerを回し、出力されたバッチCSVをそのまま移行計画のたたき台にするのが最短ルートです。移行後にトラブルシューティングとして規模を測るのではなく、事前に規模とボトルネックを掴めることが最大の価値です。
移行できるもの・できないもの
移行プロジェクトが荒れる原因のほとんどは、「移行されると思っていたものが移行されなかった」ことです。Exchange Onlineを例に、公式ヘルプが明記している範囲を整理します。
移行される
- すべてのフォルダ・サブフォルダのメール(下書き・送信済みを含む)
- 150MB以下の添付ファイル
- 既読/未読、重要度、アーカイブ済み・スヌーズ済みメール
- プライマリ カレンダーと追加カレンダー、繰り返しの予定、Teams会議リンク
- 連絡先(最大27,000件。OutlookのカテゴリはGoogle側でラベルに変換)
- Microsoft To Doのタスク
移行されない・注意が必要
| 項目 | 挙動 |
|---|---|
| メッセージ+添付が150MBを超えるメール | 移行されない |
| Notesフォルダ | 移行されない |
| メールのカテゴリ | 移行されない |
| ピン留め・フラグ付きメール | フラグは移行されない |
| 連絡先の写真・記念日 | 移行されない |
| 繰り返しタスク、Plannerのタスク | 移行されない |
| フォルダ パスが225文字を超えるメール | メール自体は移行されるが、ラベルが付かない |
| 終了日のない繰り返し予定 | 終了日が2099/12/31に設定される |
「150MB超のメールは移行されない」と「225文字超のフォルダ パスはラベルが欠落する」の2つは、移行前に移行元側で棚卸しできる項目です。Migration Plannerのユーザー レポートと合わせて、事前に該当ユーザーを特定し、個別対応の方針(手動退避するのか、割り切るのか)を決めておくと、移行後の問い合わせが激減します。
前提条件と準備
Google Workspace側
- 実行できるのはスーパー管理者のみ
- ドメインの確認が完了していること
- 移行先ユーザーは事前に作成しておく必要がある(移行時に自動作成されません)
- 対象サービス(Gmail、Googleドライブ、Google Chatなど)が有効化され、ライセンスが割り当てられていること
「ユーザーは自動作成されない」は見落とされがちです。移行バッチを流す前に、IDのプロビジョニング(GCDSやIdP連携)が完了している必要があります。移行とID基盤構築の順序を間違えると、そこで工程が止まります。
Microsoft 365側(advanced data importの場合)
- グローバル管理者(またはPrivileged Role Administrator)による承認
- Azureポータルでのアプリ登録と、Client ID・Client Secret・Tenant IDの取得
- Microsoft Graphのアプリケーション権限の付与(Exchange Onlineでは
Mail.Read、MailboxItem.Export.All、Calendars.Read、Contacts.Read、User.Read.Allなどが必要)
ここは移行元組織の情報システム部門の協力が必須になる部分です。カーブアウトやM&Aに伴う移行で、移行元テナントの管理権限が別会社にあるようなケースでは、この承認取得がクリティカル パスになります。プロジェクト計画では、技術作業より先にこの調整を置いてください。
バッチ設計の考え方
advanced data importは、Exchange Onlineで最大10バッチ、各5,000ユーザーまでを同時に走らせられます。ただし「上限いっぱいに詰め込めば最速」ではありません。実務で効く原則は3つです。
① データ量で均す。 Migration Plannerはユーザーをデータ量の軽い順に並べ替え、指定した並列バッチ数に均等に詰め込むシミュレーションを行います。全体の所要時間は「最も時間のかかるバッチ」で決まるため、重いユーザーを1バッチに固めると全体が引きずられます。
② 業務単位で切る。 技術的な最適配置と、業務的に許容できる切替タイミングは別物です。経理が月次締めの最中に切り替わるといった事故を避けるため、部門・役職(VIP、財務など)の軸で分ける発想が必要です。
③ 検証バッチを先に置く。 最初のバッチは規模を絞り、移行対象・対象外の実挙動を確認するために使います。150MB超のメールやフォルダ パスの扱いは、ドキュメントで読むのと実データで見るのとでは印象が違います。
できないこと・向かないこと
- オンプレミスのExchange Serverからの移行は、データ インポートの対象ではありません。オンプレミス環境からの移行には別のツール(Google Workspace Migrate、GWMMEなど)を検討する必要があります。
- リセラー経由での顧客データのインポートはできません。パートナーが代行する場合は、顧客のスーパー管理者アカウントで実行する運用設計が必要です。
- 移行先ユーザーの自動作成はできません。IDプロビジョニングは別工程として計画してください。
- 1ユーザーを複数のユーザーやグループへマッピングすることはできません(Exchange Online)。共有メールボックスの分割のような要件は、移行前に移行元側で整理しておく必要があります。
- OneDriveではネストしたソース フォルダを直接指定することができません。移行対象の指定粒度に制約があります。
よくある質問
データ インポートは追加費用がかかりますか。
管理コンソールに組み込まれた機能として提供されており、対応エディションであれば利用できます。従来のインストール型ツールで必要だった移行用サーバーの構築費用は不要になります。
Google Workspace Migrateはもう使えないのですか。
Exchange Online向けは2026年10月に提供終了が告知されています。SharePoint/OneDrive/Teams/Box/ファイル共有向けについては、本記事の執筆時点で終了告知は確認できていません。
Migration Plannerは移行元テナントのデータをGoogleに送りますか。
Migration Plannerはお客様の環境で実行するデスクトップ アプリケーションとして提供されています。この構成が採られている理由自体が、Googleが第三者サービス上の顧客データを直接参照しないためです。
一度に何ユーザーまで移行できますか。
advanced data importのExchange Onlineでは1バッチ最大5,000ユーザー、同時最大10バッチです。OneDrive/SharePoint Onlineは同時最大4バッチ、Teamsは1バッチ最大1,000チームで同時最大10バッチです。
添付ファイルのサイズ制限はありますか。
Exchange Onlineの移行では、メッセージと添付を合わせて150MBを超えるメールは移行されません。
移行後にフォルダ構成は再現されますか。
OutlookのフォルダはGmailのラベルに変換されます。ただしフォルダ パスが225文字を超える場合、メール自体は移行されてもラベルが付きません。
Teamsのチャットも移行できますか。
チャネルの会話に加えて、1対1・グループのチャットにも対応しています。
まとめ
- Microsoft 365からの移行手段は、インストール型のGoogle Workspace Migrateから、管理コンソール組み込みの データ インポートへ移りつつあります。
- Google Workspace Migrate for Exchange Onlineは2026年10月に提供終了。メール移行を計画中の組織は方式の見直しが必要です。
- 規模が1,000ユーザーを超えるなら advanced data import。ただしMicrosoft側のアプリ登録と権限承認が前提となるため、移行元組織との調整を計画の先頭に置いてください。
- 移行前アセスメントには Migration Planner を使い、規模の把握とバッチ計画の作成を提案フェーズで済ませておくのが最短です。
- 移行対象外(150MB超のメール、Notesフォルダ、フラグ、繰り返しタスクなど)は、移行前に棚卸しして方針を決めておくことで、移行後の問い合わせを大幅に減らせます。
移行方式の選定、Migration Plannerを用いたアセスメント、移行計画の策定については、当社でも支援を行っています。M&Aに伴うテナント分離やカーブアウトなど、移行元の権限調整が絡む案件もご相談ください。