IT PMIとは

PMI(Post Merger Integration)とは、M&A成立後に買収元と買収先の企業を統合するプロセスのことです。その中でもIT PMIは、両社のITシステム、ネットワーク、セキュリティ基盤を統合する作業を指します。

M&Aの成否を分けるのは「買収後」です。デューデリジェンスで想定していた通りのシナジーを実現するには、IT環境の統合が不可欠です。しかし実際には、M&A後1年以上経ってもメール・ファイルサーバー・認証基盤がバラバラのままという企業が少なくありません。

IT統合が遅れると、セキュリティポリシーの不統一によるリスク増大、二重のライセンスコスト、部門間のコミュニケーション障壁など、日々のコストが膨らみ続けます。

IT PMIで統合すべき主な領域

領域統合内容難易度
メールドメイン統一、メールボックス移行、配信リスト統合
認証基盤Active Directory / Entra ID統合、SSO設定
ファイルサーバーSharePoint / OneDrive統合、権限再設計
コミュニケーションTeams環境統一、チャネル・チーム構成設計低〜中
デバイス管理MDM(Intune等)統合、ポリシー統一
ネットワークVPN統合、拠点間接続、ファイアウォールルール統一
SaaS重複ツールの整理、ライセンス統合、SSO対応
セキュリティポリシー統一、EDR統合、インシデント対応体制構築

IT PMIの3フェーズ

Phase 1:現状把握と計画策定(1〜2ヶ月目)

まず行うのは両社のIT環境の棚卸しです。使用しているSaaS、ネットワーク構成、認証基盤、デバイス管理の方法、セキュリティポリシーなどを洗い出し、統合対象と優先順位を整理します。

  • IT資産の一覧作成(ハードウェア・ソフトウェア・SaaS)
  • ネットワーク構成図の作成・照合
  • 認証基盤の構成確認(AD / Entra ID / Google Workspace)
  • セキュリティポリシーの差分分析
  • 統合ロードマップの策定(優先順位・タイムライン・予算)

Phase 2:段階的な統合実行(3〜8ヶ月目)

計画に基づき、リスクの低いものから段階的に統合を進めます。一般的には、メール→コミュニケーション(Teams)→ファイルサーバー→認証基盤→デバイス管理の順で進めるのが定石です。

  • メール統合:ドメイン統一、メールボックスのバッチ移行(夜間・週末実施)
  • Teams統合:統合先テナントにチーム・チャネルを再構築、ゲストアクセスの整理
  • ファイルサーバー統合:SharePoint / OneDriveへの移行、フォルダ構成と権限の再設計
  • 認証統合:Entra ID Connect / クロステナント同期の設定、SSO統合
  • デバイス管理統合:Intune / Jamfポリシーの統一、端末のキッティング
⚠️ 統合時に最も注意すべきこと

統合作業は必ず業務時間外に実施し、ロールバック手順を事前に準備してください。特にメールとActive Directoryの統合は、失敗時に全社の業務が停止するリスクがあるため、入念なテストとリハーサルが不可欠です。

Phase 3:最適化と定着(9〜12ヶ月目)

統合後は、運用の安定化と最適化を進めます。重複していたSaaSの解約、ライセンスの統合によるコスト削減、新しい統合環境でのセキュリティポリシーの運用確認などを行います。

  • 重複SaaSの整理・解約によるコスト削減
  • 統合後のセキュリティ監査
  • 新環境への社員研修(特に買収先企業の社員向け)
  • 運用手順書の整備・引き継ぎ

IT PMIでよくある失敗パターン

失敗①:経営陣の関与不足

IT統合は「ITの話だからIT部門に任せる」では成功しません。ドメイン名の選定、ツールの統一方針、予算配分など、経営判断が必要な場面が多数あります。経営陣がPMIプロジェクトのスポンサーとして明確にコミットすることが不可欠です。

失敗②:統合計画なしの見切り発車

「とりあえずメールだけ統合しよう」と場当たり的に進めると、後工程で矛盾が生じます。認証基盤を先に統合すべきだった、ネットワーク統合が前提だった、といった手戻りが発生し、結果的にコストと期間が膨らみます。

失敗③:社員へのコミュニケーション不足

突然メールアドレスが変わる、使い慣れたツールが廃止される——買収先の社員にとって、IT環境の変更は大きなストレスです。事前の丁寧な説明、移行スケジュールの共有、ヘルプデスクの強化が重要です。

典型的なIT PMIタイムライン

時期実施内容
Month 1-2IT環境棚卸し、統合計画策定、プロジェクト体制構築
Month 3-4メール統合、コミュニケーションツール統一
Month 5-6ファイルサーバー統合、SaaS整理
Month 7-8認証基盤統合、デバイス管理統一
Month 9-10セキュリティポリシー統一、監査
Month 11-12運用安定化、コスト最適化、引き継ぎ完了

規模にもよりますが、フルスコープのIT PMIは最低でも6ヶ月、通常は12ヶ月程度を見込むべきです。「3ヶ月で全部やる」は、重大なトラブルを招く最も危険な計画です。

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まとめ

IT PMIの成否はM&A全体の成否に直結します。「統合しない」選択肢はコストとリスクを先送りしているだけであり、いずれ対処が必要になります。計画的・段階的に進めること、経営陣のコミットメント、そして専門知識を持つパートナーの活用が成功の鍵です。