中小企業のIT予算の実態
中小企業のIT支出は、売上高に対して平均1〜3%が目安とされています。しかし多くの中小企業では「IT予算」として明確に計上されておらず、SaaSの月額費用は各部門の経費に分散し、PCは都度購入で資産管理もされていない——という状態が実情です。
IT予算が明確でないと何が起きるか。場当たり的なツール導入でコストが膨らむ、セキュリティ投資が後回しになる、必要な時にPC更新の予算がない——こうした問題が連鎖的に発生します。
IT予算のフレームワーク
IT予算は大きく3つのカテゴリに分類します。
① 運用維持費(Run):全体の60〜70%
現在のIT環境を維持するための費用です。SaaSライセンス、インターネット回線、PCのリース、保守契約、アウトソーシング費用など。これは「削減」の対象ではなく、適正化の対象です。使っていないライセンスの整理や、プランの見直しでコスト効率を改善します。
② 成長投資(Grow):全体の20〜30%
業務効率化、新しいツールの導入、テレワーク環境整備など、将来のリターンを見込んだ投資です。AI導入、CRM導入、ワークフロー自動化などがここに含まれます。
③ 変革投資(Transform):全体の5〜10%
事業モデルの変革やDX推進に関わる投資です。中小企業では毎年発生するものではありませんが、M&A後のIT統合やクラウド全面移行などが該当します。
| カテゴリ | 割合 | 例 |
|---|---|---|
| Run(運用維持) | 60〜70% | M365ライセンス、PC更新、回線、保守 |
| Grow(成長投資) | 20〜30% | AI導入、SaaS新規、テレワーク強化 |
| Transform(変革投資) | 5〜10% | クラウド移行、M&A統合、基幹刷新 |
IT投資のROIの示し方
経営陣を説得するには「このITツールが良い」ではなく、「この投資でいくら得するか」を定量的に示す必要があります。
コスト削減型のROI
- SaaS整理による年間○万円の削減(不要ライセンス解約)
- クラウド移行によるサーバー維持費の年間○万円削減
- ワークフロー自動化による月○時間の工数削減 × 時給 = 年間○万円
リスク回避型のROI
- ランサムウェア被害の平均復旧コスト:500〜3,000万円。セキュリティ投資(年間○万円)はその数%で回避可能
- 情報漏洩時の損害賠償・信用失墜コスト vs セキュリティ対策コスト
- サーバー障害による業務停止(1日あたり売上○万円の損失) vs クラウド移行コスト
生産性向上型のROI
- Teams導入による会議時間の20%削減 × 全社の会議時間 = 年間○時間
- AI導入による資料作成時間の50%短縮 × 対象社員数 = 年間○時間
- ヘルプデスクアウトソーシングによるIT担当者の戦略業務時間確保
IT予算テンプレート
50名規模の中小企業を想定した年間IT予算の例です。
| 費目 | 月額 | 年額 | カテゴリ |
|---|---|---|---|
| Microsoft 365 Business Premium × 50名 | 約16.5万円 | 約198万円 | Run |
| インターネット回線(本社+拠点) | 約3万円 | 約36万円 | Run |
| 情シスアウトソーシング | 約35万円 | 約420万円 | Run |
| PC更新費(年間10台更新想定) | — | 約100万円 | Run |
| クラウドバックアップ | 約1.5万円 | 約18万円 | Run |
| セキュリティ研修(年2回) | — | 約30万円 | Grow |
| AI導入・研修 | — | 約50万円 | Grow |
| 予備費(緊急対応) | — | 約50万円 | — |
| 合計 | — | 約902万円 | — |
売上高5億円の企業であれば、IT支出比率は約1.8%。適正範囲内と言えます。
経営陣を説得する稟議の通し方
- 現状のリスクを数字で示す — 「セキュリティが甘い」ではなく「ランサムウェア被害の確率○%、被害額の中央値は○万円」と具体化する
- 競合・業界標準との比較 — 「同業他社のIT支出比率は売上の2%。当社は0.8%で大幅に下回っている」
- 段階的な投資を提案 — 一度に全額を要求するのではなく、フェーズ分けして「まず○ヶ月で○万円」と小さく始める提案にする
- 投資しない場合のコスト — 「セキュリティ投資をしない場合の想定損害額」「老朽PCを更新しない場合の故障率と業務停止コスト」など、投資しないリスクも明示する
- 成功事例を引用 — 同業種・同規模の企業の導入事例を提示し、投資対効果の実績を示す
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まとめ
IT予算は「コスト」ではなく「投資」として捉えることが重要です。Run / Grow / Transformのフレームワークで整理し、ROIを定量的に示すことで、経営陣の理解と承認を得やすくなります。まずはIT棚卸しで現在の支出を可視化することから始めましょう。