「引き継ぎ書を作って」と言われた情シス本人へ
退職を申し出てから残り30日。「引き継ぎ書を作っておいて」と言われ、何から手を付ければいいか分からない情シス担当者に向けて、本記事では絶対に作成すべき5つのドキュメントと、その具体的なテンプレート構成を提示します。
逆に経営層・人事から見ると、これらの文書がない状態で退職されると、新任者が立ち上がるまでに3〜6ヶ月の混乱期間が生じます。本記事は引き継ぎを依頼する側/受ける側のチェックリストとしても活用できます。
退職前30日の作成スケジュール
| 期間 | 作成するドキュメント | 優先度 |
|---|---|---|
| Day 1〜7 | ① IT資産台帳 | ★★★ |
| Day 8〜14 | ② 主要運用手順書 | ★★★ |
| Day 15〜21 | ③ ベンダー・契約一覧 | ★★★ |
| Day 22〜25 | ④ 緊急連絡網・エスカレーションフロー | ★★★ |
| Day 26〜30 | ⑤ 未完了タスク・課題一覧 | ★★★ |
文書① IT資産台帳
「いま社内に何があるか」を網羅した文書です。新任者は最初にこれを見ます。
必須カラム
- ハードウェア:PC(社員名、機種、シリアル、購入日、保証期限)、サーバー、ネットワーク機器
- ソフトウェアライセンス:M365、Adobe、ウイルス対策、業務アプリ(契約数、有効期限、契約者)
- SaaS契約:サービス名、契約形態(年/月)、ユーザー数、年額、請求書受領窓口
- クラウド契約:Azure、AWS、GCPのテナント情報、責任分界点
- ドメイン:会社ドメイン、各サービス用サブドメイン、レジストラ、有効期限
- SSL/TLS証明書:発行先、発行元、有効期限
30日では完璧な台帳は作れません。「主要なもの80%」を目指します。台帳のExcelシートに「最終更新日」と「未確認項目」のセクションを設け、未確認は新任者に引き継ぎます。
文書② 主要運用手順書
新任者が「業務を止めずに引き継げる」最低限の手順書です。すべてを書く必要はなく頻度が高いもの・重要度が高いものに絞ります。
最低限カバーすべき業務
- 入社時のIT手続き:M365アカウント発行、PC払い出し、SaaS招待、ロッカーカード設定
- 退職時のIT手続き:アカウント無効化、PC回収、データ移管、ライセンス返還
- パスワードリセット:M365、業務システム、VPN、SaaS別の手順
- PCトラブル対応:起動しない、ネットにつながらない、Outlookエラーの一次切り分け
- ファイル・メール復元:OneDrive/SharePointの復元、削除メール復活手順
- セキュリティインシデント初動:フィッシングメール受信時、PC紛失時、不審サインイン検知時
- 月次定例タスク:ライセンス棚卸し、ログ確認、バックアップ確認
手順書の標準フォーマット
各手順書を以下の構成で統一します。
- 業務名(例:入社時のM365アカウント発行)
- 頻度・タイミング(例:入社1週間前、毎月1〜5日)
- 所要時間(例:1名あたり15分)
- 必要な権限(例:M365グローバル管理者、Intuneメンバー権限)
- 手順(スクリーンショット付き、5〜10ステップ)
- 確認事項(例:ライセンス割当ての確認、サインインテスト)
- よくあるトラブル(例:ライセンスエラー時の対処)
- 関連ドキュメント(リンク)
文書③ ベンダー・契約一覧
「困ったときに誰に電話するか」が分かる文書です。退職後に新任者・経営者が最も使う文書です。
必須カラム
| 項目 | 記入内容 | 例 |
|---|---|---|
| サービス・契約名 | 正式契約名 | Microsoft 365 Business Premium |
| 契約先 | 会社名・取扱店 | ○○ITソリューションズ株式会社 |
| 担当者 | 名前・部署 | 営業1課 田中様 |
| 連絡先 | 電話・メール | 03-xxxx-xxxx / tanaka@xxx.co.jp |
| サポート窓口 | 緊急時の連絡先 | 0120-xxx-xxx(24時間) |
| 契約形態 | 月額/年額/買切 | 年契約・自動更新 |
| 更新日 | 次回更新日 | 2026/9/30 |
| 金額 | 年額/月額 | ¥1,560K/年 |
| 解約条件 | 違約金・予告期間 | 3ヶ月前通知 |
| 請求書 | 受領場所・支払先 | 経理庶務、振込 |
「実は田中さんの個人携帯(緊急時のみ)」「請求トラブルは佐藤部長に直接エスカレーション」など、公式マニュアルには載らない属人的なノウハウを別シートに書き残します。これが新任者の最大の武器になります。
文書④ 緊急連絡網・エスカレーションフロー
インシデント発生時に「誰が」「いつ」「何分以内に」「何を判断するか」を明記します。
典型的なシナリオ
- ランサムウェア感染疑い:感染端末の隔離→経営層へ即時報告(30分以内)→外部CSIRT/警察への連絡判断
- フィッシング被害(パスワード入力):当該アカウントの即時無効化→管理者MFAリセット→影響範囲調査
- クラウドサービス障害:影響範囲特定→社内告知→ベンダー連絡→復旧時間見込み告知
- PC紛失・盗難:当該PCのリモートワイプ→Intuneでの状態確認→警察届出判断
- 不審な海外サインイン:当該アカウントのMFAリセット→セッション無効化→影響調査
連絡網の最小構成
- 第一連絡先:情シス(自分/後任)、社長または管理本部長
- 第二連絡先:外部のサポート(M365サポート、MSSP、CSIRT)
- 第三連絡先:法務・広報(必要に応じて)、サイバー保険会社
文書⑤ 未完了タスク・課題一覧
「中途半端で残っているもの」を全て可視化します。これがないと新任者が地雷を踏みます。
必須項目
- 進行中プロジェクト:ステータス、関係者、次のアクション、想定完了時期
- 未対応の問合せ:誰から、いつ受け、現在の対応状況
- サポートチケット:オープン中のM365サポートやベンダー問合せ
- 更新が必要な契約:今後3ヶ月以内に更新タイミングを迎える契約
- 放置中の課題:「気になっているがまだ手を付けていない」リスク・改善案
- 監査・第三者対応中の事項:ISMS、Pマーク、SCS、IT監査の指摘事項対応状況
「あのSaaS、契約数が増えすぎている気がする」「あのサーバー、いつ更改するか考え中」など、確定事項でなくても情シス本人が気にしていた事項を書き残すと、後任者にとって貴重な引き継ぎになります。
ドキュメントの保管場所
作成したドキュメントは以下の3箇所に保管します。
- SharePoint / OneDrive の引き継ぎフォルダ:日常運用での参照用
- 暗号化PDFをUSBメモリで社長保管:管理者全員ロックアウト時の最終的な復旧手段
- パスワード情報のみ別管理:1Password / Bitwarden等のパスワード管理ツールの管理者引き継ぎ
ドキュメントだけ揃えても、M365グローバル管理者・ドメインレジストラ・ネットワーク機器のパスワードが引き継がれていなければ、新任者は身動きが取れません。退職前30日のうち最初の3日でパスワードの引き継ぎを最優先で実施します。
BTNコンサルティングの支援
「引き継ぎ書を作る時間がない」「何を書けばいいか分からない」「退職するまでに間に合わない」といった相談をよく受けます。BTNコンサルティングでは、退職予定日までの30〜60日で引き継ぎドキュメントの代行作成と、後任者が決まるまでの暫定情シスとしての業務継続をセットで支援します。
退職前のドキュメント作成代行、退職後の暫定情シス対応、新任者立ち上げ支援までワンストップ対応。
→ ITアウトソーシングの詳細
→ すでに退職してしまった場合の緊急対応
→ そもそも退職を防ぐ設計
まとめ
情シス退職前の30日で作成すべきは「IT資産台帳」「運用手順書」「ベンダー一覧」「緊急連絡網」「未完了タスク」の5文書です。完璧を目指さず80%を目指し、属人的なノウハウも書き残すことで新任者の立ち上げが大きく加速します。最も重要なのは、文書整備の前に管理者パスワードの引き継ぎを済ませることです。