クラウド移行の4段階とは

「クラウドに移行する」と一口に言っても、その方法と到達点にはいくつかの段階があります。自社のデータセンターにサーバーを置くオンプレミスから、最終的にコンテナやサーバーレスを活用するクラウドネイティブまで、企業のクラウド活用は大きく4つの段階に分けて理解できます。

📊 4段階の全体像

オンプレミスクラウドリフトクラウドシフトクラウドネイティブ
左から右へ進むほど、クラウドの恩恵(柔軟性・拡張性・コスト最適化)を最大限に活かせるようになります。ただし、すべての企業が第4段階を目指す必要はありません。

重要なのは、自社の業務要件・技術力・予算に照らして最適な段階を選ぶことです。それぞれの段階の特徴、メリット、デメリットを順番に解説します。

第1段階:オンプレミス

概要

自社のデータセンターやサーバールームに物理サーバーを設置し、その上に仮想マシン(VM)を構築して業務システムを運用する形態です。自社で保守・運営するすべてのインフラを自前で管理します。

構成のイメージ

物理サーバー上にHyper-VやVMwareなどの仮想化基盤を構築し、その上で複数の仮想マシンを稼働させます。ネットワーク機器(ルーター・スイッチ・ファイアウォール)、ストレージ、UPS(無停電電源装置)なども自社で調達・管理します。

メリット

  • データの完全な自社管理:機密データが社外に出ないため、データ主権の観点で安心
  • カスタマイズの自由度:ハードウェア構成、OS設定、ネットワーク設計をすべて自由に決められる
  • 既存資産の活用:既に投資済みのサーバーやソフトウェアライセンスを引き続き利用できる

デメリット

  • 初期投資が大きい:サーバー購入、データセンター契約、電源・空調の整備に多額のCAPEXが必要
  • スケーリングに時間がかかる:リソースが足りなくなったらハードウェアを追加調達する必要がある
  • 運用負荷が高い:ハードウェア故障対応、OS/ミドルウェアのパッチ適用、バックアップ管理をすべて自社で実施
  • 災害・BCP対策が高コスト:冗長化やDR(ディザスタリカバリ)サイトの構築に追加投資が必要
💡 オンプレミスが適するケース

法規制により国外にデータを出せない、超低遅延が求められるリアルタイム制御システム、クラウドへの接続が安定しない環境(工場・離島等)などでは、オンプレミスが合理的な選択肢となります。

第2段階:クラウドリフト(リフト&シフト)

概要

オンプレミスで稼働している仮想マシンの一部を、そのままの構成でクラウドに移行する段階です。「リフト&シフト」とも呼ばれ、アプリケーションのアーキテクチャを変更せずに、実行環境だけをクラウドに移す手法です。

構成のイメージ

オンプレミスにあった仮想マシンをAzure VM、Amazon EC2、Google Compute Engineなどのクラウド上のIaaS(Infrastructure as a Service)に移行します。一部はオンプレミスに残し、クラウドと並行運用するケースも多いです。

メリット

  • 移行が速い:アプリケーションの改修が不要なため、短期間でクラウドに移行できる
  • ハードウェア管理からの解放:物理サーバーの故障対応やリース更新が不要になる
  • BCP対策が容易に:クラウドの地理的冗長性を活かして、災害時のデータ復旧が容易になる
  • 段階的な移行が可能:一部のVMから移行を始め、徐々にクラウドの範囲を拡大できる

デメリット

  • コスト最適化が限定的:クラウド上でも常時VMを稼働させるため、使った分だけ課金されるクラウドの特性を活かしきれない
  • クラウド特有の機能を活用できない:オートスケーリング、マネージドサービス、サーバーレスなどの恩恵を受けにくい
  • 「クラウド上のオンプレ」になりがち:OS管理、パッチ適用、ミドルウェア管理の負荷は残る
💡 中小企業における現実的な第一歩

多くの中小企業にとって、クラウドリフトは最も現実的な最初のステップです。既存のシステムを壊さずに移行できるため、リスクとコストを最小限に抑えながらクラウドの利点(ハードウェア管理不要、BCP強化)を享受できます。

第3段階:クラウドシフト

概要

クラウド上でゼロからシステムを設計・構築する段階です。クラウドリフトとの違いは、オンプレミスの構成をそのまま移すのではなく、クラウドの特性を前提にアーキテクチャを再設計する点にあります。

構成のイメージ

Azure VMやEC2上に仮想マシンを構築する点はリフトと同様ですが、クラウドのマネージドサービス(Azure SQL Database、Amazon RDS、Cloud Load Balancerなど)を積極的に活用し、運用負荷を軽減します。

メリット

  • クラウドの利点を活用できる:オートスケーリング、ロードバランシング、マネージドデータベースで運用効率が向上
  • OS/ミドルウェア管理の負荷が軽減:PaaS(Platform as a Service)を使えば、ミドルウェアの管理はクラウド事業者に任せられる
  • コスト最適化が進む:必要な時に必要なだけリソースを使うことで、無駄な固定費を削減

デメリット

  • 再設計が必要:既存システムのアーキテクチャを見直す工数とコストが発生する
  • クラウドの知識が必要:設計・運用にクラウド固有のスキルが求められる
  • ベンダーロックインのリスク:特定クラウドのマネージドサービスに依存すると、他クラウドへの移行が困難になる

第4段階:クラウドネイティブ

概要

クラウドを前提に最新の技術を用いて環境を構築する段階です。コンテナ(Docker)、コンテナオーケストレーション(Kubernetes)、サーバーレス(Azure Functions、AWS Lambda)、マイクロサービスアーキテクチャなどを活用し、クラウドの能力を最大限に引き出します。

構成のイメージ

仮想マシン単位ではなく、コンテナ単位でアプリケーションをデプロイします。各マイクロサービスが独立してスケールし、CI/CD(継続的インテグレーション/デリバリー)パイプラインで自動的にデプロイされます。

メリット

  • 圧倒的なスケーラビリティ:トラフィックに応じて秒単位でスケールアップ/ダウンが可能
  • 高い可用性と耐障害性:マイクロサービスごとに独立してデプロイ・復旧できるため、障害の影響範囲を局所化
  • 開発速度の向上:CI/CDパイプラインにより、コード変更から本番デプロイまでを自動化
  • コスト効率が最も高い:サーバーレスなら使った分だけ課金、ゼロトラフィック時はコストゼロ

デメリット

  • 高度な技術力が必要:Kubernetes、Docker、マイクロサービス設計のスキルが求められ、学習コストが高い
  • 運用の複雑性:コンテナのオーケストレーション、サービスメッシュ、分散トレーシングなど運用ツールの習熟が必要
  • すべてのシステムに適するわけではない:小規模な社内ツールにKubernetesを導入するのはオーバースペック
💡 クラウドネイティブ = ゴールとは限らない

クラウドネイティブは確かに技術的には最も進んだ段階ですが、中小企業の社内システムであればクラウドシフト(第3段階)で十分なケースがほとんどです。自社サービスをSaaSとして外部に提供する場合や、トラフィックの変動が激しいWebサービスではクラウドネイティブが威力を発揮します。

4段階の比較表

項目オンプレミスクラウドリフトクラウドシフトクラウドネイティブ
インフラ管理すべて自社HW管理不要
OS管理は自社
PaaS活用で
OS管理も軽減
インフラを
ほぼ意識しない
移行コスト低い中程度高い
ランニングコスト固定(CAPEX)やや高い(OPEX)最適化可能従量課金で最適
スケーラビリティHW追加が必要VM追加は容易オートスケール可秒単位で自動
必要な技術力サーバー/NW管理既存スキル+クラウド基礎クラウド設計コンテナ/K8s/
マイクロサービス
BCP・DR高コストで実現地理冗長が容易自動フェイルオーバー高可用性が標準
適するシステム規制対応
低遅延制御
レガシー移行
第一歩
業務システム
Webサービス
SaaS
大規模Webサービス

自社に最適な段階の選び方

判断基準①:現在のIT環境

オンプレミスの物理サーバーがリース更新を迎えるタイミングは、クラウドリフトを検討する絶好の機会です。すでにクラウド上にVMがある場合は、PaaS/マネージドサービスへのリアーキテクトを検討するクラウドシフトが次のステップです。

判断基準②:社内のIT人材

専任のクラウドエンジニアがいない中小企業では、まずはクラウドリフトから始め、段階的にクラウドの知見を蓄積するアプローチが現実的です。Kubernetes運用が必要なクラウドネイティブは、十分な技術力が確保できてから検討しましょう。

判断基準③:システムの性質

社内の業務システム(勤怠管理、ワークフロー等)であれば、クラウドシフト(マネージドサービスの活用)で十分です。一方、外部向けのSaaSプロダクトや、アクセス数の変動が大きいECサイトなどは、クラウドネイティブの恩恵が大きくなります。

判断基準④:コスト構造の方針

設備投資(CAPEX)を避けて月額の運用費(OPEX)に切り替えたい場合は、クラウドリフト以上の段階が適しています。ランニングコストを最小化したい場合は、サーバーレスやオートスケーリングが使えるクラウドシフト以上が有利です。

BTNコンサルティングの支援

BTNコンサルティングでは、お客様の現状と目標に応じて、最適なクラウド移行段階の選定から実装までを一貫して支援しています。

クラウド移行アセスメント

現在のサーバー・ネットワーク・アプリケーションの構成を調査し、どのシステムをどの段階でクラウドに移行すべきかをロードマップとして提示します。コスト比較(オンプレ維持 vs クラウド移行)もシミュレーションで明確にします。

クラウドリフト:Azure / AWSへのVM移行

既存の仮想マシンをAzure VMやAWSに移行するプロジェクトを計画・実行します。Azure MigrateやAWS Application Migration Serviceを活用した移行検証、ネットワーク設計(VPN/ExpressRoute)、セキュリティ設定まで対応します。

クラウドシフト:Microsoft 365 / Azureの最適設計

Microsoft 365を中心としたSaaS/PaaS環境の設計・構築を得意としています。Entra ID(旧Azure AD)による認証基盤、SharePoint / OneDriveによるファイル管理、Intuneによるデバイス管理など、マネージドサービスを最大限に活用した環境を構築します。

導入後の運用支援

「情シス365」サービスと組み合わせることで、クラウド移行後のIT運用を継続的にサポートします。クラウド環境の監視、コスト最適化、セキュリティ運用、ユーザーサポートまで、社外の情シス部門としてお客様のIT基盤を守ります。

💡 まずは無料相談から

「サーバーのリース更新を機にクラウドを検討したい」「どのクラウドサービスを使えばいいかわからない」——そんなご相談にITコンサルタントの立場から具体的にお答えします。
→ ITコンサルティングの詳細を見る

まとめ

クラウド移行は「オンプレミス → クラウドリフト → クラウドシフト → クラウドネイティブ」の4段階で整理できます。段階を上がるほどクラウドの恩恵は大きくなりますが、必要な技術力と移行コストも高くなります。

すべての企業がクラウドネイティブを目指す必要はありません。大切なのは、自社の業務要件・技術力・予算に照らして「ちょうどいい段階」を選ぶことです。まずはクラウドリフトで物理サーバーからの脱却を実現し、段階的にクラウドの活用度を高めていくアプローチが、中小企業にとって最も現実的な戦略です。