製造業が直面するIT課題

製造業のIT環境には、他の業種にはない固有の課題が存在します。

  • OTとITの分断:工場の制御系システム(OT)とオフィスのIT環境が別々に管理され、統合的なセキュリティ対策が困難
  • レガシー設備の存在:10〜20年稼働している生産設備がWindows XPやWindows 7で制御されているケースが珍しくない
  • サプライチェーンリスク:取引先・協力会社経由でのサイバー攻撃が増加。自社が踏み台にされるリスク
  • 人材不足:工場のITを理解し、OTとITの両方に対応できる人材が極めて少ない
  • DX推進の遅れ:紙の帳票、FAX、Excel管理が残存し、データの利活用が進まない

OTとITの融合

OTとは

OT(Operational Technology)とは、工場の生産設備、PLCプログラマブルロジックコントローラー、SCADA(監視制御システム)、IoTセンサーなど、物理的なプロセスを制御・監視する技術の総称です。

なぜ融合が必要なのか

スマートファクトリーの実現には、工場のセンサーデータをクラウドに集約し、AIで分析して生産を最適化する仕組みが必要です。そのためにはOTネットワークとITネットワークを安全に接続する必要があります。しかし、無計画に接続すると、IT側からOT側へのサイバー攻撃の経路を作ってしまうリスクがあります。

Purdueモデルによるセグメンテーション

OT/IT統合のセキュリティ設計で広く参照されるのがPurdueモデルです。ネットワークをレベル0(物理プロセス)〜レベル5(エンタープライズ)まで階層化し、各層間にファイアウォールやDMZ(非武装地帯)を配置して、不正なアクセスの横展開を防ぎます。

工場ネットワークの設計

OTネットワークとITネットワークの分離

工場の制御系ネットワークとオフィスのITネットワークは物理的または論理的に分離する必要があります。VLANによるセグメンテーション、産業用ファイアウォールの設置、DMZを経由したデータ連携が基本的な設計パターンです。

無線LAN環境の整備

工場内でのタブレット端末の活用(作業指示、品質チェック、在庫管理)には安定したWi-Fi環境が必要です。金属製の設備や高天井の工場環境では電波の減衰が大きいため、現地のサイト・サーベイに基づいたアクセスポイント配置設計が重要です。

リモートアクセス環境

設備メーカーによるリモートメンテナンスや、本社からの工場システムへのアクセスには、VPNまたはゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)を使用します。アクセス権限の最小化と、接続時のログ記録が必須です。

製造業特有のセキュリティリスク

ランサムウェアによる生産停止

ランサムウェアがIT環境からOT環境に侵入し、生産管理システムや設備制御システムが使用不能になるケースが増えています。生産停止の損害は1日あたり数千万円に達することもあり、製造業におけるランサムウェア対策は最優先課題です。

サプライチェーン攻撃

取引先や協力会社のVPN機器の脆弱性を突かれ、自社ネットワークへの侵入を許すケースが報告されています。自社だけでなく、接続先のセキュリティ状況も含めたリスク管理が求められます。

USBメモリ・外部媒体のリスク

インターネットに接続されていないOT環境でも、USBメモリ経由でマルウェアに感染するリスクがあります。USBデバイスの利用ポリシーの策定と技術的な制御(Intuneによるデバイス制限等)が必要です。

中小製造業が優先すべきIT投資

優先度施策期待効果
🔴 最優先OT/ITネットワーク分離ランサムウェアの工場侵入を防止
🔴 最優先バックアップ体制の構築被害時の復旧時間を最小化
🟡 早期VPN/リモートアクセスの見直し不正アクセスの経路を遮断
🟡 早期PC/サーバーのOS更新サポート切れOSの脆弱性を解消
🟢 計画的ペーパーレス化・タブレット導入作業効率の向上、データの可視化
🟢 計画的IoTセンサーによる設備監視予防保全の実現、稼働率の向上

BTNコンサルティングの支援

製造業のIT環境アセスメント

工場のOT環境とオフィスのIT環境を統合的に調査し、セキュリティリスクと改善ポイントを洗い出します。ネットワーク構成図の作成、機器の棚卸しも含めて対応します。

工場ネットワークの設計・構築

OT/IT分離の設計、VLAN構成、産業用ファイアウォールの導入、Wi-Fi環境の整備まで、工場特有の環境を考慮したネットワークを構築します。

Microsoft 365によるオフィスIT基盤の整備

製造業のバックオフィス環境をMicrosoft 365で標準化。Entra ID、Intune、Defender、SharePointを活用し、セキュリティとコラボレーションの両立を実現します。

まとめ

製造業のIT環境整備は、OTとITの境界管理が最大のポイントです。まずはネットワーク分離とバックアップ体制を最優先で整備し、その上でペーパーレス化やIoT活用を段階的に進めるアプローチが現実的です。工場特有のリスクを理解し、ITとOTの両面から対策できるパートナー選びが成功の鍵です。