Microsoftが公式に出した「M365バックアップ」とは
長らくM365テナントのバックアップは「Microsoftは責任を持たない(共有責任モデル)」とされ、Veeam、AvePoint、Druva、Acronis、Barracudaなどのサードパーティ製品を使うのが一般的でした。しかし2024年、Microsoft自身が初めて純正のバックアップサービス「Microsoft 365 Backup」をGAし、ゲームチェンジが起きています。
本記事では公式サービスの機能・料金・できること/できないこと・サードパーティとの比較・ランサムウェア復旧時の使い方までを、中小企業向けに整理します。バックアップ戦略の全体像はM365バックアップ戦略を併せて参照してください。
- 超高速復元:従来サードパーティの10〜100倍のスループット(フル復元が時間単位→分単位)
- テナント内完結:データがM365の外に出ない。データ移転リスクなし
- Microsoft責任のSLA:プラットフォーム障害もMS側で一気通貫対応
対応範囲(できること/できないこと)
対応ワークロード(2026年5月時点)
- Exchange Online:メール、予定表、連絡先、メールボックス
- SharePoint Online:サイト全体、ライブラリ、リスト、アイテム
- OneDrive for Business:個人ファイル、共有ファイル
対応していないもの
- Teams(チャット、チャネル投稿、ファイルはSharePoint経由で対応)
- Planner、To Do、Lists(独立アプリ機能)
- Microsoft Forms、Loop、Stream(一部Streamは対応予定)
- Power Platform(Power Apps/Automate/BI)
- Defender、Entra IDなど管理系設定
「Exchange/SharePoint/OneDriveに保管されているデータ」が対象。Teamsのファイル本体はSharePointに保管されるためカバーされるが、Teamsチャット本文・スレッドはカバー外です。
料金体系
- 料金:保護対象データの0.15ドル/GB/月(東日本リージョン、2026年5月時点)
- 請求方法:Azure サブスクリプション経由でPay-As-You-Go
- 最低契約期間:なし
- 初期費用:なし
- 保持期間:365日(標準)。延長は今後対応予定
100名規模(M365データ容量1TB想定)で月額約2.3万円。サードパーティ製品(同規模で月10〜30万円)と比較して大幅に安価です。
サードパーティ製品との比較
| 項目 | Microsoft 365 Backup | Veeam Backup for M365 | AvePoint Cloud Backup | Druva |
|---|---|---|---|---|
| 提供形態 | SaaS(MS純正) | SaaS/オンプレ/IaaS | SaaS | SaaS |
| 料金(100名想定) | 月2〜3万円 | 月8〜15万円 | 月10〜20万円 | 月10〜25万円 |
| 復元速度 | ◎(分単位) | ○ | ○ | ○ |
| Exchange | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
| SharePoint | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
| OneDrive | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
| Teams Chat | × | ◎ | ◎ | ◎ |
| Planner/Lists/Loop | × | △ | ○ | △ |
| Entra ID/Power Platform | × | × | △ | × |
| 保持期間 | 365日 | 無制限 | 無制限 | 無制限 |
| 外部保管 | ×(テナント内) | ◎ | ◎ | ◎ |
| eDiscovery | 標準連携 | 独自 | ○ | ○ |
使い分けの推奨
Microsoft 365 Backup単体で十分なケース
- 主にExchange/SharePoint/OneDriveを使う中小企業
- 365日の保持期間で要件を満たせる
- サードパーティ製品の管理工数を削減したい
- テナント内で完結させたい(規制要件含む)
- 復元速度を重視(ランサムウェア発生時の早期復旧)
サードパーティ製品が必要なケース
- Teamsチャット/Planner/Listsなどの完全バックアップが必須
- 365日を超える長期保持(規制要件)が必要
- テナント外への独立保管が要件(地震/長期障害/請求紛争)
- クロステナント復元、テナント間移行が必要
- マルチクラウド統合バックアップを使っている
併用パターン(推奨:中堅企業)
- 主:Microsoft 365 Backup(Exchange/SharePoint/OneDriveを高速+安価に保護)
- 副:サードパーティ(Teamsチャット/Planner/長期保管に絞って使う)
これによりサードパーティのライセンス本数を絞れるため、トータルコストが下がります。
導入手順(最短2時間で開始)
- 事前要件確認:Azureサブスクリプション、Microsoft Syntex契約、グローバル管理者権限
- Microsoft Syntex有効化:M365管理センター → Setup → 「Microsoft Syntex」を有効化
- Pay-As-You-Goサブスクリプション連結:請求対象のAzureサブスクリプションを設定
- Microsoft 365 Backupを有効化:M365管理センター → Setup → 「Microsoft 365 Backup」
- 保護ポリシーを作成:対象ワークロード(Exchange/SharePoint/OneDrive)、対象ユーザー/サイト、保護開始日を指定
- 初回ベースライン完了を待つ:データ量により数時間〜数日
- 復元テスト:テスト用メールボックス/サイトで復元動作確認
復元シナリオ別の使い方
シナリオ1:ランサムウェア感染(最重要)
SharePointサイト全体がランサム暗号化された場合の手順:
- 感染拡大の封じ込め(条件付きアクセスでサインインブロック)
- Microsoft 365 Backupで対象サイトを開く
- 「感染前の時点」を指定(時刻指定復元)
- 復元先:元のサイト/新サイト
- 復元実行(数十TBでも数時間で完了)
- 復元完了後にサインイン許可を再開
シナリオ2:誤削除されたOneDriveファイル
- 復元ポイントを指定→対象ファイル/フォルダを選択→復元
- 30日以内ならOneDriveのごみ箱でも可
- 30日以降はBackupからの復元のみ
シナリオ3:退職者メールボックスの法的保全
- 退職時にライセンス回収するとメールボックスが削除される
- Backupで365日保護されていれば、後から取り出せる
- eDiscovery連携で法務調査にも対応
シナリオ4:重要サイトの過去時点参照
- 「3か月前のサイト状態を一時的に再現したい」場合
- 新サイトに復元することで、本番に影響なく参照可能
よくある落とし穴
- Teamsチャットが守られていない:Backupでは対象外。チャットが重要な場合はサードパーティ併用
- Microsoft Syntex有効化が前提:Syntex自体は無料化(消費課金)したが、有効化手順が必要
- 保持期間365日:規制要件で7年保管が必要な場合は長期Archiveを別途設計
- テナント外保管なし:「Microsoftテナント自体が長期障害」の場合に依存しっぱなしになる。BCP要件が厳しい場合は副バックアップ
- サブスクリプション請求の見落とし:Azure Pay-As-You-Goに別請求。経理連携を最初に整える
- Power Platform未対応:Power Apps/Automateで重要データを扱う場合は別バックアップ
- Entra IDの設定はバックアップ対象外:別途エクスポート手順を準備
中小企業向け推奨戦略(300名規模)
- 主バックアップ:Microsoft 365 Backup(月2〜3万円)でExchange/SharePoint/OneDriveを保護
- 副バックアップ:必要ならサードパーティをTeamsチャット+Planner+長期保管限定で利用(月3〜5万円)
- Entra ID設定:四半期ごとに設定エクスポートをスクリプト化
- Power Platform:重要アプリのソリューションエクスポートを月次運用
- 復元テスト:四半期1回、年次BCP訓練の一部として実施
従来サードパーティ単体で月10〜30万円かかっていた費用が、月5〜8万円程度に削減できる構成です。
まとめ
Microsoft 365 Backupは「Microsoft純正でテナント内完結、高速復元、安価」という3点で、サードパーティの代替もしくは補完として強力な選択肢になりました。Teamsチャットや長期保管が必須でないなら、メインバックアップを純正に切り替えるだけで月数万円〜十数万円のコスト削減になります。ランサムウェア対策の観点でも、復元速度が圧倒的に速いのは大きな利点です。
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