なぜメールが最大の脅威なのか
サイバー攻撃の約90%はメールを侵入経路として利用しています。IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威」でも、フィッシング・ランサムウェア・ビジネスメール詐欺(BEC)は毎年上位にランクインし続けています。
その理由はシンプルです。メールは全社員が毎日使うツールであり、1人でも不審な添付ファイルを開いたりリンクをクリックしたりすれば、攻撃者にとっては「侵入成功」だからです。最もコストパフォーマンスが高い攻撃手段であるメールに対して、企業は技術的対策と人的対策の両面で備える必要があります。
3大メール脅威を知る
① フィッシングメール
正規のサービス(銀行、Microsoft、配送業者など)を装い、偽のログインページに誘導してID・パスワードを窃取する手口です。近年はAIによる文面生成で日本語の品質が飛躍的に向上し、「怪しい日本語だから見分けがつく」という時代は終わりました。
② ビジネスメール詐欺(BEC)
経営者や取引先を装い、経理担当者に偽の送金指示を送る詐欺です。FBI(米国連邦捜査局)の報告ではBECの被害額はランサムウェアを大きく上回ります。攻撃者は事前に企業のメールを盗み見て、取引のタイミングに合わせて精巧な偽メールを送ります。
③ ランサムウェアの配信
添付ファイル(Word/Excel/PDF)やリンクを経由してランサムウェアを配信します。感染すると社内のファイルが暗号化され、身代金を要求されます。バックアップがなければ事業継続が困難になり、中小企業では廃業に至るケースも報告されています。
今すぐ実施すべき基本対策5選
対策①:多要素認証(MFA)の全社展開
仮にパスワードがフィッシングで窃取されても、MFAが有効であれば不正ログインを防げます。メールセキュリティの最重要施策です。Microsoft 365ではEntra IDのセキュリティ既定値で無償で有効化できます。
対策②:添付ファイルのサンドボックス検査
メールに添付されたファイルを仮想環境(サンドボックス)で自動実行し、不正な動作がないか検査します。Microsoft 365のSafe Attachments機能で実現できます。
対策③:URLの安全性検査
メール本文中のURLをクリック時にリアルタイムで安全性を検査し、悪意のあるサイトへのアクセスをブロックします。Safe Links機能で実現できます。
対策④:外部メールの警告表示
社外から受信したメールに「このメールは社外から送信されました」という警告バナーを自動表示します。BECの防止に効果的で、Exchange Onlineのメールフロールールで設定可能です。
対策⑤:送信ドメイン認証の設定
自社ドメインの「なりすまし」を防ぐSPF/DKIM/DMARCの設定は、次のセクションで詳しく解説します。
送信ドメイン認証(SPF/DKIM/DMARC)
送信ドメイン認証とは、メールの送信者が本物であることを受信側が検証する仕組みです。自社のドメインがフィッシングに悪用されることを防ぐとともに、自社のメールが相手に確実に届くことを保証します。
| 技術 | 役割 | 設定場所 |
|---|---|---|
| SPF | 「このIPアドレスから送信されたメールだけが正規」と宣言 | DNSのTXTレコード |
| DKIM | メールに電子署名を付与し、改ざんされていないことを証明 | DNSのCNAME/TXTレコード+メールサーバー設定 |
| DMARC | SPF/DKIMの検証に失敗したメールの処理方針を指定(none/quarantine/reject) | DNSのTXTレコード |
DMARCの導入は段階的に進めるのが定石です。まずp=none(監視のみ)で開始し、レポートを分析して正規メールが誤判定されないことを確認した上で、p=quarantine(隔離)→p=reject(拒否)へ段階的に強化します。
Microsoft 365のメール保護機能
| 機能 | 対象プラン | 効果 |
|---|---|---|
| Exchange Online Protection(EOP) | 全プラン | スパムフィルタ、既知のマルウェア検出、送信ドメイン認証 |
| Safe Attachments | Business Premium / E5 / Defender for O365 | 添付ファイルのサンドボックス検査 |
| Safe Links | 同上 | URLのリアルタイム安全性検査 |
| Anti-Phishing Policy | 同上 | 送信者のなりすまし検出(AI/機械学習ベース) |
| Attack Simulation Training | 同上 | 社員向けフィッシングシミュレーション訓練 |
特にMicrosoft 365 Business Premiumは、中小企業にとって最もコストパフォーマンスの高い選択肢です。Defender for Office 365 Plan 1が含まれており、Safe Attachments・Safe Links・Anti-Phishingが標準で利用できます。
社員教育とフィッシング訓練
技術的対策だけでは100%の防御は不可能です。最終的には「人」が最後の防衛線です。
効果的な教育のポイント
- 実例ベース:「こういうメールが来たらこう対処する」という具体例を見せる
- 定期的な訓練:年1回ではなく四半期ごとにフィッシング訓練を実施
- 報告文化の醸成:「怪しいメールを報告する」ことを評価する(クリックしたことを罰しない)
- 経営層も対象:BECのターゲットは経営者・経理担当であり、経営層こそ訓練が必要
Microsoft 365 Business PremiumのAttack Simulation Trainingを使えば、社員に偽のフィッシングメールを送り、クリック率を測定し、教育コンテンツを自動配信するところまで一気通貫で実施できます。
BTNコンサルティングの支援
メールセキュリティアセスメント
現在のメール環境(SPF/DKIM/DMARC設定状況、Exchange Online Protection設定、フィルタリングルール)を診断し、改善ポイントを報告します。
Defender for Office 365の設計・導入
Safe Attachments、Safe Links、Anti-Phishing Policyの最適な設定を設計・実装します。誤検知を最小限に抑えつつ、防御レベルを最大化するチューニングを行います。
フィッシング訓練の企画・運用
Attack Simulation Trainingの設定から訓練シナリオの作成、結果分析、経営層への報告まで一括で対応します。
まとめ
サイバー攻撃の入口の約90%はメールです。MFA、Safe Attachments/Links、SPF/DKIM/DMARC、社員教育の4つを組み合わせることで、メール経由の脅威を大幅に軽減できます。Microsoft 365 Business Premiumであれば、これらの対策を追加コストなしで実装可能です。